ラッコへの脅威 | Threats

Last updated: Sep 11,2017

ラッコが直面する脅威

シャチが捕食したり、サメにかまれたりするほかにラッコには目立った天敵はいません。ラッコは、ラッコの住む生態系においては基本的に頂点捕食者(top predator)として存在しています。

一度は絶滅に瀕したラッコが、手厚い保護でその数を増やしてきたという事実は、野生動物の保護プログラムにおける素晴らしい成功例とされてきました。しかし、ラッコは未だレッドリスト上でEndangered(絶滅危惧IB類)に分類されています。種々の法律で守られ、保護されているラッコが一歩間違えば絶滅してしまうかもしれないという状況にあるのはなぜなのでしょうか。
ラッコが現在直面している問題を整理しました。

原油流出による汚染

原油流出事故で死んだラッコ Getty Images

ラッコはアザラシやアシカのような脂肪層を持たないため、たくさんの空気を含んだ厚い毛皮で覆われ体温を保持していますが、その毛皮はきれいに手入れされている時のみ、その力を発揮します。原油等が海に流出してしまうと、毛皮が汚れて空気を取り込めなくなってしまうため、体温を維持することができず低体温症になって死に至ります。

 

また、原油には様々な有害な化学物質が含まれており、揮発した原油を吸い込んだり、毛づくろいの際に毛についた原油等をラッコが飲み込んでしまったりすると、肺や内臓などに異常をきたし、死に至ります。


 また、ある程度流出した油が回収された後も、水の中に残った有害物質が食物連鎖を通じて高濃度化し、頂点捕食者であるラッコの身体には有害な物質が蓄積され、何年も後になって死に至る場合もあります。原油の流出は、その直後から何十年も後まで、生態系に甚大な影響を与えてしまいます。

 

1989年にアラスカで起きたエクソン・バルディース号の座礁による原油流出事故では、その影響で数千頭のラッコが死んだといわれています。死んだラッコは海に沈んでしまうため正確な数は不明ですが、2,800頭から5,000頭と見積もられました。救出されたラッコもいましたが、捕獲や油を落とす工程がラッコに大きなストレスを与え、リリース後まもなく死んでしまったものも少なくなかったようです。

 

原油の流出事故の可能性自体は非常に稀ではありますが、ラッコたちは、もともと生活範囲が広くなく、水から離れて暮らすことができないため、一度その被害に巻き込まれると一気に絶滅してしまう可能性が高いのです。

漁網・釣り具

背中に釣り針がひっかかっているラッコ
背中に釣り針がひっかかっているラッコ

1970年代半ばから80年代にかけて、カリフォルニアでは少なくない数のラッコが漁網にかかって溺死していました。ラッコの死は夏に増加する傾向がありますが、その時期に合わせて商業漁船の漁が活発になっていることとの関係性が指摘されています。

 1984年、カリフォルニアでは商業漁業に対し、ラッコが餌を取る区域のほとんどで、90フィート(約27m)より浅く網を仕掛けることを禁止しました。

 

しかし、一方で釣り糸に絡まったり魚用の罠にはまったりして怪我をした結果、死に至るラッコもいます。ラッコが生息する地域で釣りを楽しむ場合は、責任を持って後始末をしなければなりません。

天敵による捕食

主にラッコの天敵と言えるのは、ホホジロザメです。ホオジロザメはラッコを食べるわけではなく、噛むだけのことが多いのですが、その傷もラッコにとっては致命的となります。
理由ははっきりしませんが特にカリフォルニアラッコの生息地の北端と南端ではサメの被害に遭うラッコが増えており、それがラッコの個体数の増加に歯止めをかけていると考えられています。

ラッコがトキソプラズマなどの寄生虫に感染し、脳症を起こした場合、震えなどの症状がでることがあり、それがサメをおびき寄せているのではないかという説もあります。

ホホジロザメによる噛みつきがカリフォルニアラッコの個体数増加を阻む要因の一つであるとされる Getty Images


2015年、回収されたラッコの死因の50%以上がサメによる噛みつきが原因でした。なぜサメの噛みつきが急増したのかについてはまだ原因は明らかになっていません。

 

また、アラスカではシャチによる捕食もあります。シャチはもともとより大きなアザラシやアシカなどを食べていましたが、それらの個体数が減ってきたため、最近ではより小さいラッコも狙うようになってきたと考えられています。シャチを解剖した際、胃からラッコの骨の一部が出てきたという事例がるため、シャチがラッコを食べることは事実のようです。

 

数としては多くはありませんが、ラッコの子どもがハゲワシにさらわれたり、クマやキツネに襲われたりする例もあるそうです。

病気

トキソプラズマはネコやオポッサム(フクロネズミ)を宿主とする寄生虫です。死後解剖されたラッコの多くがトキソプラズマに感染しており、今やラッコの死亡原因の多くを占めています。トキソプラズマ症は神経や脳を犯します。また、ラッコの異常行動を引き起こすため、その動きに反応したサメに噛まれてしまうのではないかという説もあります。こうした病原虫は陸からの排水により海へ流れ込み、貝などに蓄積し、食物連鎖の結果ラッコへ到達するのです。ネコや貝類はこうした病原虫が寄生しても影響はありませんが、ヒトやラッコは感染によって健康被害を受けてしまうのです。


被害を最小限に食い止めるためにも、ネコの糞便は水に流さずゴミとしてきちんと袋に入れて捨てることが大切です。

気候変動

気候変動は地球全体の生態系に大きな影響を及ぼしています。
特にカリフォルニア沿岸の2015年夏の水温は観測史上最高となり、過去より5度も高くなっていました。水温があがることで、生態系は大きく崩れます。2015年は水温の上昇で魚が移動してしまい、それを捕食するアシカが飢餓状態になり、特に幼獣が大量に保護されました。

生態系は網の目のように互いに繋がっており、どこかが崩れると連鎖反応的に他の生物にも影響が及びます。
本来寒冷なアラスカの海には存在しない寄生虫が、ベルーガなどの海洋哺乳類に発見されるようになってきています。また、シャチが水温の上昇に伴い、北へ生息範囲を広げています。これらは、ラッコを含めて北の海に住む生物たちにとって大きな脅威となります。

 

また、海洋酸性化が進むとカキなどの貝類が殻を形成しづらくなるということが研究で分かっており、このまま海洋酸性化が進めばラッコがエサとする多くの貝類が食べられなくなってしまう可能性もでてきます。

人間によるストレス

カリフォルニアでは観光客を含めカヤックをする人が急増し、それに伴いここ数年人間による海洋生物へのハラスメントが問題になっています。
アメリカでは海洋哺乳動物保護法という法律があり、海の生物を脅かす行動をとることは厳しく禁じられています。観察する際はカヤック10艘分離れてみることが推奨されています。しかし現実にはそういったハラスメントが野放しになっている状況です。
ラッコは他の海洋哺乳類とは異なり脂肪層がありません。したがって体温の維持のために毎日体重の25%の量を食べ、毛の間に断熱材の役割を果たす空気を入れるためグルーミングをし続けなければなりません。エサを獲るため水に潜ると空気が押し出されてしまうからです。エサを食べ、グルーミングをするために1日の大半を費やしています。ラッコがのんびり寝ているように見えるのは、唯一エネルギーをセーブしている時間なのです。カヤックなどで接近し休んでいるラッコを脅かすことは、せわしなく動き続けなければならないラッコの唯一の休息時間を邪魔することにほかなりません。特に子育て中のメスは栄養が十分に取れていないことが多く、ストレスに弱いため、人間が更に脅かすことがあると場合によっては子どもを捨ててしまうこともあります。
自分だけならいいだろうという気持ちや、こうした知識を持たないことにより、再びラッコを人間の手で絶滅に追いやってしまわないよう、野生動物に対して敬意を払うことを忘れてはなりません。
ラッコの観察方法についてはこちらをご覧ください。

毒性藻類(ドウモイ酸)

また、最近問題になっているのがアオコ(藻類の大発生)により算出される珪藻毒です。これは、窒素などを含む有機肥料などが海へ流れ込んだ結果、海水が富栄養化し、また海水温の上昇などにより大量に藻類が発生します。この藻類が産出するドウモイ酸と呼ばれる物質は毒性があり、アシカを始め多くの生物の健康に被害を及ぼしています。珪藻毒により海洋哺乳類には一般的に海馬の萎縮がみられます。海馬は記憶や方向感覚を司る部分で、ここにダメージを受けることで座礁する可能性が高まります。

水質汚染

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updated:3/19/2018