【記事】ラッコの苦しい戦い - ラッコと人間と環境(3) |Threatened: The Controversial Struggle of the Southern Sea Otter - Part.3

ラッコが直面する問題を捉えたPalomar Universityの動画の書き起こしパート3。

ラッコたちの死因解明とともに、ラッコたちと人間の生活のつながりが明らかになっていきます。

今回も誤訳御免でお願いします。

過去の記事はこちらから パート1 | パート2

下記の動画は続き(18:57)あたりに設定されています。

沿岸環境において重要な影響を持ち、また近づきやすいという点においても、ラッコは地上の海洋動物の中ではもっとも研究されている動物の一つです。

長年、科学者たちの研究によって、ラッコは人間の影響に対し弱く、その数が増々脅かされてきたかを示してきました。

 

モントレー水族館 ラッコ研究員 アンドリュー・ジョンソン氏

「私たちは毎年ラッコを数えています。ラッコの生息数を調べ、フィールドリサーチを行い、捕獲して無線装置を取り付けます。そして、長期間にわたりラッコが何をしているのか追跡するのです。また、そうしたラッコからは健康状態を調べるため標本(血液サンプルなど)をとります。

死んだラッコの検死も行います。私たちにはネットワークがあり、可能な限り多くのラッコの死体を集め、狩猟漁業局へ送り、その死因を解明するのです。ここでは、そうした仕事を助けています。しかし、言ってみれば、動物たちの生から死を知り、病気が動物たちの身体でどのように発生するか、またどの病気が動物たちにとって深刻なものかを知る、そんな役割を私たちは果たしているのです。」

 

USGS 野生動物研究者 ティム・ティンカー氏

「私たちが、カリフォルニア州狩猟漁業局、モントレー水族館、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、魚類野生生物局、その他の様々な組織や団体などと協力して現在行っている調査によって、人間の様々な活動により、ラッコやその他の海洋生物が、自然の、もしくは人工的な毒素に晒されているということが分かりました。」

 

2009年以降、カリフォルニア州沿岸のラッコの死亡数は増加してきています。

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「カリフォルニア沿岸に生息するラッコは、毎年の数量調査では約2700から2800頭です。私たちが毎年助けているラッコの数は、死んだラッコの10%程度です。」

 

10年以上の間、科学者たちは、ラッコたちが何と闘っているのか、それが海洋環境全体にとってどのような意味があるのかを心配な目で調査してきました。

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「こうした調査により、これらの動物が歩哨動物として素晴らしい役割を果たすということを知りました。

注意を払って小さなサインを見つけることができれば、そうした動物たちが自分たちが住む沿岸の海洋環境で何が起こっているのかをよく示しているということがわかるでしょう。

2007年初め、検死の結果それ以前には見たことがない症状をもったラッコが何頭かいました。そうしたラッコは、歯茎と白目が、ピンクや白という普通の色ではなく、黄色くなっていました。腹部を解剖してみると、感染したラッコたちの肝臓が異常に腫れ上がっていました。

しかし、一番驚いたのは、これらのラッコが死んで間もなく運ばれてきたものにも関わらず、開腹し、よく観察するために肝臓を触ったところ、まさに文字通り、肝臓が手の中でバラバラになってしまったということです。」

 

このような症状は前に見たことがなかったため、ミラー博士はこのような死の原因で考えられるものについて、調査を開始しました。その結果は、博士が海洋環境について知っていることすべてに対して疑問を投げかけるようなものでした。

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「私はずっと考え続けていました。この症状は、わたしが獣医学科で教わったこととは辻褄が合わなかったからです。私が当時考えたのは、かつてラン藻類と呼ばれた、シアノバクテリアでした。(科学者たちが組織のDNAを調べたところ、それは藻類ではなく、実はバクテリアだったのです。)こうしたしあのバクテリアの一種に、ミクロキスティスという、その中心になる種があるのですが、それは、ミクロシスチンと呼ばれる毒素を作りだします。それが、肝臓には非常に有毒なのです。

海洋生物にこの毒素が検出された例があるか文献を調べましたが、まったくありませんでした。」

 

ラッコの死体からミクロシスチンが検出されたという検査結果がでた後、モントレー湾からほんの数マイル東にあるピント湖では、かつて北アメリカで検出された中でも最も高い毒素の値だったということが分かりました。

様々な調査の結果、その「微小な殺人者」がピント湖から水路を通り、ラッコの生息地へ流れ込んでいるということが結論づけられました。

 

サンディエゴ沿岸保護 水質研究所 所長 トラヴィス・プリチャード氏

「ミクロシシスティスは温かく、栄養豊富な水で繁殖します。それは、農場から湖や貯水池に流れ込む水と同じようなものです。淡水から海へ流れ込み、そこでしばらく留まるため、貝類・エビ・カニや濾過摂食者を通じ、食物連鎖の中で蓄積されていくのです。

したがって、それらの貝類・エビ・カニなどを食べる動物はミクロシスチン毒を摂取することになり、肝臓を破壊されてしまうのです。」

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「これまで31頭のラッコからその毒が検出されました。また、嵐の後で淡水が海に流れ込んだ後には、検査で陽性を示す場合もあります。」

トキソプラズマ原虫'Toxoplasma gondii tachyzoites', the DPDx Parasite Image Library
トキソプラズマ原虫'Toxoplasma gondii tachyzoites', the DPDx Parasite Image Library

農業排水や他の人間が作り出した汚染物質だけがラッコを脅かしているわけではありません。

ラッコにトキソプラズマ原虫が発見され、陸上の動物との驚くべき繋がりが明らかになったことで、門切り型の科学的な知識に疑問を投げかけることになりました。

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「ラッコが、通常陸上の動物にしか見られない寄生虫に感染していることを他の研究者たちが発見したので、トキソプラズマ原虫についての調査が開始されました。

これが奇妙に思われる理由は、この寄生虫の唯一の宿主はネコ類であると考えられていたからです。

トキソプラズマ原虫は、あらゆるネコ類と関係しており、糞に潜んでそれが海へ流れ、そこからラッコの体内へ入る可能性があるのです。」

 

ネコの50%は、生きているうちのどこかのタイミングでトキソプラズマに感染します。

外ネコは、ネズミなどのげっ歯類や鳥など病気を持つ動物を食べるため、より感染の危険にさらされています。

ネコにはほとんど症状が出ないにも関わらず、17%のラッコはこの寄生虫による脳症で死に至っています。

他の病気同様に、トキソプラズマ原虫は餌になる動物に蓄積することで、ラッコに感染します。

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「私たちの想像以上に感染が広がっているということが確実に分かっています。

全体的に見れば、カリフォルニア沿岸に生息する雄のラッコがトキソプラズマに感染する確率は約70%です。ネコが感染源ということを考えると、非常に高い数字であると見ることができるでしょう。

基本的には一度感染すると、一生感染することになります。

感染しても、何事もなく一生を終えるものもいます。しかし、他の理由で病気になったり、怪我をしたりしてこの寄生虫が身体の中で活動を再開し、身体の隅々まで蝕んでしまうという可能性もあります。

したがって、ラッコに対して取り続けなければならない責任とも言えます。」

 

USGS 野生動物研究者 ティム・ティンカー氏

「寄生虫が、本来いないはずの海へ辿りついてしまう。それは、私たちの責任です。私たちが、その寄生虫を水路や排水管へ流してしまうからです。」

 

サンディエゴ沿岸保護 水質研究所 所長 トラヴィス・プリチャード氏

「今起こっているのは、時間をかけて汚染物質が地表面に溜まり、その季節の最初に激しい雨が降った時、長い乾燥した暑い季節の間積もってきたものが、一気に流され、湖などに流れ込み、それが川を通って海にそのまま流れ込むということです。

西海岸で、嵐の際の雨水は何の処置もされないため、そのように汚染物質を多く含むことになります。

開発による問題というのは、ダブルパンチなのです。開発というのは、都市の環境汚染を引き起こすだけでなく、本来自然がそのような汚染を浄化する機能の限界を超えてしまうのです。

このようにして、1800年代半ば以降、カリフォルニアの湿地帯の9割、多くの河口や沼などが失われてしまいました。

湿地帯が抱える問題の一つは、人間が住みたいと思うところにそれが存在するということです。沿岸の湿地帯は、住むのに適した場所であるため、その多くが埋立てられ、舗装されました。」

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「私たちは湿地帯を手にいれ、それを取り除こうとしてきました。パイプや管を通し、コンクリートで埋め立ててきました。わたしたちは、自然の中で腎臓の役割を果たしてきたこうした湿地帯を、取り除いてきたのです。」

 

パート4(完結)へつづく