【記事】ラッコの母親業は楽じゃない |Motherhood is no picnic for sea otter mums

本日は、2014年7月3日付のseaotters.comの記事"Motherhood is no picnic for sea otter mums"をご紹介します。

人間にとってもラッコにとっても、母親業というのは楽な仕事ではないようです。

子どもを抱いて移動する母親ラッコ
子どもを抱いて移動する母親ラッコ

ラッコが食用旺盛なのには、ちゃんとした理由があります。最も小さい海洋哺乳類として、体温を維持するためだけに毎日体重の4分の1を食べなければならないという、先例のない代謝に関する難問に直面しています。しかも、雌のラッコにとってはその代謝の需要がさらに跳ね上がることもあります。アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校のニコル・トメツ氏によると、授乳による余分な損失に加えて、自分自身と子供を支えるために餌を獲らなければならないため、更にエネルギーを費やさなければなりません。しかし、ラッコの母親たちが担う代謝上の付加が正確にどの程度なのか、誰も知りませんでした。

「成熟していないラッコのエネルギー需要も、成熟した雌のラッコの授乳による影響も、定量化されてきませんでした。」とトメツ氏は言っています。幸いにも、トメツ氏と共同研究者たちは、カリフォルニアのモントレーベイ水族館で行われている世界でも最も優れた赤ちゃんラッコのリハビリテーションプログラムに触れることができました。そこで、母親であることにより雌ラッコにどの程度の負荷がかかるのか調べるため、海へ還す前に野生の子ラッコの成長過程における代謝率を測定することができました。

 

休んだり、泳いだり、餌を探したりという行動をする際の若いラッコ(毛が生え変わる前の小さなラッコから青年期にわたる)の代謝率を測定した結果、一日あたりの代謝需要は生後数週間の1日当たり2.29MJから、自分で餌を獲り始める時期の1日あたり7.41MJに及びました。自立し始めてからも、食事を補うため母親の元に戻っていました。母親が本当の意味でその義務から解放されるのは、6か月後離乳してからでした。

 

代謝データを計算すると、子どもが自立するまでに総計930MJという驚異的な熱量を与えるため、雌ラッコは1日あたりの代謝率を、尋常でない、96%も増やさなければならないということになりましたた。この並外れたエネルギー消費量を、仮に余分に餌を獲れないとして雌ラッコが必要とするエネルギー量に変換した場合、雌ラッコは体重のほぼ133%も消費するということが分かりました。ラッコがこの莫大な代謝不足を補う唯一の方法は、ただでさえ厳しいエネルギー支出をさらに増やし、すでに代謝の限界まで消費しているにも関わらず、一度に獲る餌の量を増やすしかないのです。

 

研究チームは、こうして限界まで力を尽くした結果、授乳の終わりごろになると母ラッコたちの多くは健康状態が悪く、高い死亡率を示すのではないかとみています。また、子どもが捨てられてしまった理由の多くは、それで説明がつくと考えています。

トメツ氏は、こう述べています。

「生理的要因により、分娩後子どもを育てるにしろ見捨てるにしろ、雌のラッコたちは、『賭けを避ける』方法を採ると考えられています。」

健康状態が悪く、子どもに十分に与えられない雌ラッコたちは、出産後子どもを捨てる可能性が高くなります。それにより、次の繁殖の機会により確実に子育てができるように自分自身によりよいチャンスを与えるのだとトメツ氏は説明しています。

「最良の決定は、『損失を切る』ことである場合があります。」とトメツ氏は言います。

ラッコの母親たちは、自分が生き延びることにリスクを負ったり、今の子どもに手を焼きすぎて次の繁殖のチャンスをふいにしたりするよりは、自身の健康状態を維持するためより早い時期に子どもを自立させるという方法をとる場合、があります。しかし、これにより早く親から離れた若いラッコは自立後に死亡するリスクがより高くなってしまうのです。

 

(c) 2014 バイオロジスト社より出版されました。

記事はエクスペリメンタル・バイオロジー・ジャーナル誌より再構成しています。

 

参考文献

Thometz, N. M., Tinker, M. T., Staedler, M. M., Mayer, K. A. and Williams, T. M. 
(2014). Energetic demands of immature sea otters from birth to weaning: implications for maternal costs, reproductive behavior and population-level trends. J. Exp. Biol. 217, 2053-2061.

>> Abstract / Full text

記事元:

seaotters.com

Motherhood is no picnic for sea otter mums

July 3, 2014 by Kathryn Knight