【記事】余波~アラスカとラッコとアメリカ最悪の原油流出事故~Aftermath:The Story of Alaska, Otters and America's worst oil spill

今回はアメリカ地質調査所が制作した短編映画、"Aftermath:The Story of Alaska, Otters and America's worst oil spill"の書き起こしです。
原油流出の影響とラッコたちの救出の様子をご覧ください。

※動画は設定上シェアできないので、よろしければこちらからご覧ください。リンク先の頁の一番下の動画です。(字幕なし)

特に会話部分に音声が不鮮明な部分が多いため、省略してある部分があります。誤訳御免でお願いします。

(c)USGS
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1989年3月24日、シングルハルタンカー(船体が一重構造のタンカー)のエクソン・バルディーズ号はアラスカ州ヴァルディーズを出港しカリフォルニア州ロサンゼルスへ向かっていたが、プリンス・ウィリアム湾のブライ岩礁で座礁してしまった。座礁から数時間で、987フィート(約300m)の船体からプルドー湾産の1100万ガロン(25万7000バレル)の原油が流出した。これは、2010年にメキシコ湾原油流出事故が起こるまで、アメリカ史上最大の原油流出事故であった。流出した原油は最終的には海岸線1,300マイル(約2,080㎞)以上、11,000平方マイル(約28,500平方㎞)の海を汚染し、25万羽の海鳥、2,800頭のラッコ、300頭のアザラシ、250羽のワシ、22頭のシャチ、数百万匹の鮭とニシンの卵を死に至らしめた。(seaotters.comの解説より)

(C)USGS
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船長:こちらヴァルディーズ号・・・・もうレーダーに出ているだろうが・・・グース島沖北、ブライ岩礁にて座礁・・・明らかに・・・油の流出が見られる。

 

ナレーション:災害が起こった時、それに対する対応はどこから始まるのでしょうか。原油流出後のアラスカにおけるラッコの救出作業は、ここからはじまりました。拡散する原油を集め、魚のふ化場周辺の繊細な水域を守るために、多くの作業員が動員されました。

何百マイルもの、辺鄙な岩場の多い海岸線が汚染され、何百万ガロンもの原油が流出し、春の嵐が私たちの限界を超えて油を拡散させる中、原油を回収する作業は決して簡単なものではありませんでした。この規模の原油流出は、人間がコントロールできるものではありません。環境や野生生物への深刻な影響を考え、即座の決断が求められました。

アラスカにおいては、ランダール・デイヴィス博士が災害時におけるラッコの最初の専門家でした。

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ランダール・W・デイヴィス博士(国際野生動物研究所):プリンス・ウィリアム湾で原油に最も影響を受けた種の一つが、ラッコでした。これは、ラッコが冷たい水の中において、保温機能を毛皮に頼っているためです。毛皮に油が付着すると、毛どうしがくっついてしまい基本的に毛皮の保温機能をダメにしてしまうのです。

我々がプリンス・ウィリアム湾ラッコを保護しに来た際一番重大な問題だったのは、非常に海岸線に岩場が多いということでした。アラスカのこの地域は小さな湾や入江が何百とあり、その一つ一つにラッコがいる可能性がありました。

ラッコを見つけるために、我々は捕獲用のボートを手に入れ、動物の取り扱いに熟練した者でチームを作りました。皆、海岸線に沿ってラッコを探しました。ラッコを見つけたら、近づきます。捕獲用の網を使ってラッコを保護し、ボートに連れ帰ります。


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暴れるラッコをケージに入れようとする人たちの会話:
「そんなに暴れるなよ」
「頭を見てて」

「手とか入れないようにしないとね。指に気を付けて」

「うわっ!そのハンドルを取って。手に気を付けて。待って。ゆっくり」

「待って!出てこないように」

「下ろして」

「ケージの上に。ケージが高すぎるよ」

「ケージを下して。ほら」

「ほら。そうそう」

「そうそう、そうやらないと」

「ほら。入ってる。ひざ、気をつけて」

「何だよ、中に入ってくれよ」

「うわっ!出てきた出てきた。ほらほらほら。閉めて!閉めて!」

「よし」

「しっぽ」

 

ランダール・W・デイヴィス博士(国際野生動物研究所):そこから、ラッコたちはヘリコプターで洗浄とリハビリの施設へと運ばれていきました。

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ナレーション:ラッコ救助プログラムの司令部はバルディーズにある前線病院でした。設備の整ったリハビリテーション施設の先駆けでした。危険な状態が続く中、新しい施設が作られ、ラッコの生存率は改善していきました。

集中治療センターは、以前体育館だったところに設置されました。洗浄用のテーブルと囲いのプールが作られ、ボートが連れ帰ったラッコたちが収容されました。油で汚染されたラッコたちは、ケージに入れられて飛行機で運ばれ、鎮静剤を打たれ、洗浄してもらい新しく作られた海水の囲いプールにできるだけ早く移されました。テリー・ウィリアムス博士は原油流出により汚染されたラッコたちの手当てと洗浄の責任者でした。

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テリー・M・ウィリアムズ博士(国際野生動物研究所):ラッコは非常にかわいい動物です。特に子どものラッコはかわいいですね。フワフワしていますから。可愛がらなければと思わせるような外見なのです。しかし、実際、ラッコはかみつぶすほどの力を持っています。二枚貝をこじ開けたり、アワビをこじ開けたりできます。同じように噛めば、指だって食いちぎることができるのです。ボランティアにとっては、ラッコはあくまで野生動物だということをよく心に留めておくことが大切だと思います。

 

ナレーション:原油に汚染されたラッコの回復技術は知られていました

アメリカ大陸の沿岸で原油生産の促進を担当しているアメリカ内務省の機関である無機物管理局による資金提供で行われた研究のおかげです。

彼らは遡ること1976年、将来のことを考えて、海洋哺乳類の専門家とともに原油の流出がラッコに及ぼす影響についての研究を開始しました。そして1982年、ミネラルズ・マネジメント・サービスはカリフォルニアとアラスカのプリンス・ウィリアム湾における、毎日の、および季節ごとのラッコの分布についての集中研究に援助を行いました。この情報は、起こりうるタンカーの原油流出がラッコに及ぼす影響を評価する上で非常に重要でした。

1984年初めこれらの科学的な研究が広がっていきました。無機物管理局の援助でシーワールド研究所における研究はせラッコの洗浄やリハビリテーションの技術を発展させ、それは原油に汚染されたラッコに手当を施す上で非常に重要であると分かったのです。

ラッコは洗浄を受ける前に、軽く鎮静剤を打たれます。洗浄においては食器洗い用の洗剤が使われます。油を安全に取り除くという点で、食器用洗剤が最も一般的に手に入りやすいものだからです。

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トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:バリウムを投与します

女性:震えてるわ。でもさっきカニの足を食べてたから・・・

トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:震えてる。寒いのかな。

女性:寒いのよ。

トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:ちょっと体温測ってくれる?

男性:ブドウ糖を500㏄ほどくれる?

トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:大丈夫だよ。このラッコは頑張ってる。

女性:大丈夫だといいわね。・・・体温は華氏98.6度。(摂氏37度)

トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:よし。バリウムを0.5cc投与するから記録しておいて。発作はないようだ。ドライヤーで、普通の熱さで、暑すぎないように、毛皮に風を送って温めてあげて。

女性:お日様にあててあげる?

トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:そうだね、外に出そう。

女性:すぐ外でいい?

トーマス・ウィリアムズ獣医学博士:いいだろう。

ロバート・ベンダ博士(ボランティア):このラッコはつい30分ほど前にここへ連れて来られたんだけど、痙攣をおこしていたんだ。獣医が来てブドウ糖を500㏄とバリウムを投与した。45分ほどで回復して、今はケージを這い回っているよ。回復が早いね。

女性:大変な仕事だけど、もしラッコが元気になるのなら、報われます。ラッコたちの命を助ける、それが全てです。


ナレーション:リハビリテーション施設が充実し、私たちの知識が増すにつれて、ラッコが生存するチャンスも増えていきました。バルディーズの初期の頃から、その後に続く高度な施設へ、目覚ましい進歩を遂げました。

熟練したスタッフが配置された集中ケアユニットは、その分野における英雄的な努力によって運営されていました。救助作業は24時間体制でできうる限りのことが行われました。初期の頃、皆が大変な作業を続けるための動機づけとなることがありました。これはあるアラスカラッコの話です。

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ラッコを捕獲しているボランティアたちの会話:

「何か集められた?」

「いや、まだ」

「こんな状態で連れて帰る意味はあるんだろうか」

「どうにかしてやろう。連れて帰ろう」

「4時までには戻らないと」

「その死んだラッコだけ?」

「いや、まだ生きてるよ。街に連れて帰って手当をしてやろう。弱ってる」

「そうだな。」

集中ケアセンターでの獣医とボランティアたちの会話:

女性:心拍はない?

ケン・ヒル獣医学博士:あるよ。数分前に最後の息をしたよ。弱いけど心臓は動いているようだ。

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集中ケアセンターでの獣医とボランティアたちの会話:

女性:心拍はない?

ケン・ヒル獣医学博士:あるよ。数分前に最後の息をしたよ。弱いけど心臓は動いているようだ。

女性:ないです。体温もないし、触診でわかる心拍もありませんでした。

女性:そう。

ケン・ヒル獣医学博士:袋をもってきて。ラッコをこっちに移そう。水をためて。

女性:最初のほど長くなくていいわ。黒い袋よ。

ケン・ヒル獣医学博士:ここへ。

男性:何かボウルのようなものある?

ケン・ヒル獣医学博士:よし、心拍が戻った。

女性:胸の下に手をやって。胸の真ん中よ。心臓が頭より高くなるように。

男性:口と歯茎は・・・

女性:持ち上げて。体の上に水を流し続けて。体中にね。

男性:・・・しないと。

女性:はい。

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ナレーション:この野生のラッコは、あらゆる困難にもかかわらず、疲れを知らぬ献身的なボランティアの助けを借りて生き延びることができました。

医学的な結果がよく、保護されたご褒美の美味しい餌をたくさん食べた場合は、野生に戻されることになります。

リリース前の段階として、レスキューセンターから最初の囲いプールへと移されます。そして、最終的に完全にリリースされる前の段階として、海水の囲いプールへと移されます。

問題は、きれいな海、望ましくは似たような環境を見つけてあげることですが、リリース後ラッコがすぐに原油で汚染された水域に戻ってしまわないよう、十分距離があるということを考量しなければならないことでした。無機物管理局が指摘した潜在的な問題でした。

アラスカでは、保護されたラッコの多くが妊娠していました。ほとんどの赤ちゃんは死産か、もしくは母親が弱りすぎて子どもを育てられず、捨てられてしまいました。バルディーズのみなしごラッコたちは、海へ帰すにはまだ小さすぎたため、アメリカ魚類野生生物局の計らいで水族館で余生を送ることになりました。結局のところこららの努力はラッコだけに対するものではありませんでした。これは人間自身のためでもあり、私たちが依存している海や、生命を支えるための食物連鎖の問題でもありました。

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テリー・M・ウィリアムズ博士(国際野生動物研究所):野生動物たちが同じような苦しみを味わわずにすむように、またアラスカのように自然をダメにしないように、人々に参加してもらう、万が一のための計画をたて、そしてとくにバルディーズのような原油で汚染された野生動物たちの保護をする施設が準備できることをちゃんと確認しておく必要があります。

ランダール・W・デイヴィス博士(国際野生動物研究所):自分で分かっている、いないにかかわらず、環境や野生動物を守るという問題は私たち一人ひとりの責任なのです。だから、私たちは社会として、野生動物を十分に保護しなければならないのです。

ナレーション:それは、研究するということでもあり、備えておくということでもあります。ラッコの歴史や油に汚染されたラッコの洗浄方法の研究は、バルディーズ号の原油流出後のラッコ保護を成功させるために不可欠な情報を提供しました。この初期の科学的研究がなければ、ラッコのリハビリは成功しなかったでしょう。


アラスカでの経験は、原油流出の野生動物に対する影響を最小限に食い止める方法の研究を続ける必要性を示しています。私たちはもちろんそういった事故が起こらないようにしなければなりませんが、いったんそういうことが起こった場合に対処できるように、備えておく必要があるのです。