【記事】エルクホーン湿地帯におけるラッコの「栄養カスケード」| Elkhorn Slough Otters Trophic Cascade

本日はYoutubeのElkhorn Slough Foundationチャンネルで2015年2月9日に公開された、"Elkhorn Slough Otters Trophic Cascade"の書き起こしをご紹介します。Al Jazeera放送のEarthriseという環境問題などを扱う番組から、エルクホーン湿地帯におけるラッコを頂点捕食者とした「栄養カスケード」についてのお話です。
動画の6:09頃に登場する鼻の赤いラッコは「らっこちゃんねるの仲間たち」でご紹介したチンピラに似ているようです。

私たちの海が直面している大きな問題の一つに、「海草の草原」の喪失が挙げられます。「海草の草原」は海洋の二酸化炭素貯蓄量のおよそ15%を占めています。1ヘクタール当たり熱帯雨林の2倍の量の二酸化炭素を貯蔵します。そしてまた、多くの絶滅の恐れがある生き物たちの棲家となっています。しかし、ここカリフォルニア中央部のエルクホーン湿地帯では海草に対する流れが変わってきています。予想外の「盟友」のおかげです。

「はじめまして。お会いできて嬉しいです」

「こちらこそ」



   

この900ヘクタールの河口は、川と太平洋がぶつかっているところです。農業が盛んな場所で、肥料や殺虫剤が農業排水に流れ込み、敏感な生態系を脅かしています。


「農地がこのように海に近いと、水質にどのような影響がありますか?」  

「海岸が都市の中心部に近かったり、農業の中心地に近かったりすると、このような問題がおこります。

生態系に過剰な栄養分が流れ込むと、大型の藻類が大繁殖し、基本的には海草類が死んでしまいます。

海草は幼魚や無脊椎動物たちにとって非常に大切な生息地を提供していますが、根系に二酸化炭素を閉じ込めるという意味でも非常に効果的なのです。根系に何千年も、二酸化炭素を閉じ込めておくことができるのです。

「水の華」(注:藻類の大繁殖)は海草から光を奪ってしまいます。海草棚が死んでしまえば、二酸化炭素を取り込むことができなくなるばかりではなく、すでに閉じ込められていた二酸化炭素を放出してしまうことになります」


大型藻類は繁殖し、岩に張り付き、最後には死んでいきます。そして腐敗しはじめます。それはバクテリアのエサとなるため、こうした腐敗していくものは全て、この大量の藻類も同様に、酸素を必要とします。その結果、藻類と場所や光をめぐって競争している海草にとってだけではなく、生物多様性にとっても非常に大きな問題となります。

世界の「海草の草原」の半分以上が減少傾向にあります。しかし、ここエルクホーン湿地帯では、海草の草原が驚くべき復活を遂げつつあります。大食漢の、好奇心旺盛な生き物のおかげです。


「ここを見てください」

「わぁ」

カリフォルニアにはかつて何千頭ものラッコが生息していました。しかし1800年代、その柔らかな毛皮を目的として、絶滅寸前まで乱獲されてしまいました。その後、様々な保護活動の努力の結果、少しずつ回復しつつあります。


「回復してきたのは、ほんのここ10年のことです。数が増えてきたのは」

現在、この河口付近には100頭余りのラッコが生息し、驚いたことに年に10万匹ものカニを食べます。この旺盛な食欲が、「栄養カスケード」として知られる連鎖反応を引き起こし、生態系のバランスをとる手助けをしています。ラッコがカニを食べるとカニの数が減り、そうするとウミウシ類が増えます。このウミウシ類は海草の健全性にとって非常に重要なのです。海草の表面についた藻類を食べ、海草に光が届くようにするからです。

 


「本当に行くの?」
「用意できましたよ」

「ええ、行く?」
「行きましょうか」

「ちょっと怖いわ。水は冷たいのかしら?」

「冷たいですよ」

「飛び込むの?」

「飛び込んでください。」

「(笑い声)わぁっ!超浅いですね。何か見えますか?」

「わたしたちが探すのは、このナメクジのような生き物です」

「わかりました」

「このナメクジのような生き物が、海草にとって非常に重要なのです。待って。ここに何匹かいます。ここにいるのが見えますか?」

「おお!」


「これは、Sea Slug(海のナメクジ)と呼ばれる生き物です。海草の上を一日行ったり来たりして、表面をきれいにするのです」

「こんな生き物が海草を守っているってすごいですね」

「はい、凄いことだと思います。海草の上で繁殖する藻類を食べるこの生き物がいなければ、海草は非常に大変です」

「素晴らしい」


ラッコが生態系にとって非常に重要であるため、科学者たちはラッコのゆっくりと着実な復活を注意深く観察しています。ラッコを捕獲し、タグをつけ、無線装置を埋め込みます。


「ここはいい場所ですね」

「そうですね、‭うまく行っていると思います」
「待って、場所を記録するから」

「近い?」

「かなり近いわね」


「ラッコを追跡する目的は何ですか?」
「わたしたちは週7日、毎日出かけていって、特定のラッコを探しだし、どこにいるか、何をしているかを調査しています。それによって、この地域のラッコの分散状況や何を食べているか、また健康状態などを知ることができます。向こうの右側のは3496ね」
「音が鳴っているのはラッコですか?」

「このビーという音は、ラッコの体内に手術で埋め込んだ無線送信器です。それによってどこにいるかわかるのです。見てみませんか?向こうにいますよ」

「ありがとう。・・潜ってしまったみたい」

研究者たちは、北アメリカ西海岸沿いにおいて最高位の捕食者が戻ってくることで、海の様々な生き物や、果ては海の生態系全体を再生させる影響を与えているということに気がつきました。

 
ラッコがしていることは、カニを食べることで海草に再びアドバンテージを与え、大型藻類に対して形勢を逆転させるということです。


とすると、世界中の生態系にラッコのような頂点捕食者を入れれば、影響を及ぼすのに十分でしょうか。


場合によってはその予測は正しいと言えるでしょう。人間が崩してしまったシステムに頂点捕食者を取り戻し食物網を再構築すれば、その生態系の健全性を取り戻せる可能性も大きいのです。