【記事】ラッコの毛を模したウエットスーツ素材 | Wet suits with hair?

本日は2016年1月25日付のStudent Scienceから、"Wet suits with hair?"をお届けします。

ラッコの毛は冷たい水の中で体温を保持するため重要な役割を果たしています。その特徴から着想を得て、ダイビングスーツの素材が開発されているそうです。

太くて短いとげ状の物で覆われているこのゴムシートにより、冷たい水に潜るダイバーのウエットスーツの表面に空気を閉じ込め保温効果をもたらす「毛の多い」素材ができるかもしれない。FELICE FRANKEL
太くて短いとげ状の物で覆われているこのゴムシートにより、冷たい水に潜るダイバーのウエットスーツの表面に空気を閉じ込め保温効果をもたらす「毛の多い」素材ができるかもしれない。FELICE FRANKEL

ラッコは非常に可愛らしい。疑う余地もない。しかしこの海洋哺乳類は別の意味でも素晴らしい。
ラッコは摂氏16度(華氏61度)以下の海で泳いで暮らしているが、摂氏38度(華氏100度)の体温を維持することができる。またクジラやアザラシ、アシカなどのような脂肪層で断熱しなくても体温を維持することができるのだ。今日、技術者たちはラッコから鍵を得ている。一つの長期的な最終形の製品は、冷たい海に潜る人々のための、毛の生えたウエットスーツになるかもしれない。

ラッコは多くの時間を冷たい水の中で過ごす。常にグルーミングを行い、密な体毛に空気の断熱層ができるようにしている。“MIKE” MICHAEL L. BAIRD/WIKIMEDIA COMMONS (CC-BY 2.0)
ラッコは多くの時間を冷たい水の中で過ごす。常にグルーミングを行い、密な体毛に空気の断熱層ができるようにしている。“MIKE” MICHAEL L. BAIRD/WIKIMEDIA COMMONS (CC-BY 2.0)

ラッコの秘密はどんなものなのだろう?ラッコは動物の中で毛の密度が最も高い。切手より少し大きいほどの面積(6.5平方センチメートル/1平方インチ)に約100万本の毛が生えている。ラッコが泳ぐとき、厚い体毛が体のすぐそばに空気を抱え込む。それにより冷たい水が皮膚へしみ込み体温を奪うのを防いでくれるのだ。

 

表面が短くて太い棒状のものに覆われたものを研究している研究者もおり、それがいつか毛皮に着想を得た布地になるかもしれない。そう、毛の生えたウエットスーツだ。まだ実現はしていないが、今のところメーカーや技術者らの助けになるものを学んでいるところだ。

表面

表面の粗さは水のしみ込みやすさに影響する。化学的なレシピもそうだ。科学者たちは長い間そうした特性を研究してきた。また、小さな突起や畝状になったものの影響の解析も行っている。しかし、毛のような柔軟な構造物がその物質の防水性にどの程度影響を及ぼすかについて研究を行っているチームは非常に少ないとアリス・ナストーは言う。ナストーは、ケンブリッジのマサチューセッツ工科大学のメカニカルエンジニアだ。(メカニカルエンジニアは機械装置の設計、開発、構築、テストを行うため物理学や材料科学を使用する人。)

 

 

最近、ナストーとその同僚は、毛皮のようなデザインに向けた最初のステップに取り掛かった。このデザインは、ラッコやオットセイの密な体毛が皮膚の側にどのように空気を溜め込むのに役立つかという点に触発された。この分野での基本的な知識のギャップを埋める手助けをする機会に触発された、とナストーは述べている。例えばこのような疑問だ。大きな構造物を表面に作ると、小さな突起や尾根状の物と同じように撥水性を増すことができるだろうか?

 

その疑問に答えることで、エンジニアがいくつもの問題を解決する手助けになるだろうとナストーは言う。例えば、表面が水がしみ込むのに抵抗する力を向上させるような、様々な技術を開発することができる。

 

最初のステップとして、ナストーらのチームは表面が硬くて短いもので覆われていた場合、撥水性の表面が’どのようになるかを証明した。まず、彼らは、金型に管状の穴を何百も彫刻するためにレーザーを使用していた。次に、液状のゴムのようなシリコンでその金型を満たした。シリコンは穴を埋め、その上に溢れる。材料がゲル化すると、短いもので覆われたシートが完成する。最後にナストーのチームは、水を入れた容器にこのゴムシートを浸し、何が起こるか観察を行った。水がゆっくりその構造物の中に浸され空気と入れ替わるほど、より表面が撥水性を持つと考えられた。

 

その研究所の試験では、材料の特性を変更したときの効果も研究しました。例えば、それらは、短い構造物の大きさとその密度を変えてみた。研究者らはまた、その表面をゆっくり水に浸すかわりに早く浸す研究も行った。

 

その構造物が長く、密であるほど水が浸み込むまでに時間がかかることが分かった。また水の中に素早く浸すほど、捉われた空気を長く保つことができることも分かった。それでも、様々な表面は最終的にすべて全部水がしみ込んでしまった。

 

ナストーは11月23日にマサチューセッツ州ボストンで行われた米国物理学会の流体力学部門の年次総会で、調査結果を発表した。

 

チームの結果は「非常に興味深く、非常に有用でしょう」と研究に関与していないホセ・ビコは言う。ビコは、フランスのパリ市立工業物理化学高等専門大学に勤めており、流体力学を研究している。液体と気体が圧力下でどのように流れるかも研究対象だ。

 

新たな発見が車のラジエーターのような奇妙な形の構造を設計するエンジニアを助けることができるのではないか、とビコは指摘している。(これらの装置は、フィンと呼ばれる多くの平坦で密集した表面を持っており、車両のエンジンの熱を冷却する。)メーカーは多くの場合、錆止めの液体に、このような装置を浸す。その装置が液体に十分長く浸されていないと、液体は完全には浸透しない。そうなると、装置は錆びやすくなってしまう。新しいデータによって、錆止めの液体で完全にコーティングするために一つの装置をどの程度浸さなければならないか、エンジニアたちはより良いアイデアが得られるかもしれない。

ラッコに学ぶ

将来的には、ナストーとその同僚らは、毛により似せた、長く柔軟な構造物を配した表面を研究することを計画している。この研究により、いくつかの疑問は解決するかもしれない。例えば、空気をよく捉えられるフェイクファーを作るためには、その「毛」の長さや柔軟性、密度はどの程度にすればいいのか、ということだ。

 

このような構造を設計方法を探している人々はラッコから学ぶことがある、とヘザー・リワナグは言う。リワナグは、カリフォルニア工科大学サンルイスオビスポ校の海洋生物学者だ。リワナグはカリフォルニア大学サンタクルーズ校で博士号を取得した際、ラッコの毛について研究を行った。

 

一つには、長く粗いラッコの毛は断面が丸くない。ガードヘアと呼ばれるこの毛は、楕円形をしている。その形状により、毛が濡れていると一定の方向にねるようになっている。また毛の表面が小さなうろこ状になっているという特徴がある 。そのため毛がひっかかることができるようになっている。そのため、水を弾き、空気を閉じ込める柔軟な殻のようになるのだ。

 

「その空気を閉じ込める層がなければ、ラッコは厚い毛皮の層が必要になり、結果的にはアザラシほどの大きさになってしまったかもしれません」とリナワグは指摘している。

 

これは、レメルソン財団からの寛大な支援により実現できた、初めての技術と革新のニュースです。

Student Science
Wet suits with hair?

BY SID PERKINS 7:00AM, JANUARY 25, 2016