【記事】生態系のバランスを再構築するラッコ:ヒューズ博士への5つの質問 | Sea Otters Restoring the Balance: 5 Question for Dr. Brent Hughes

前回の記事で、ワッソン博士のもとでブレント・ヒューズ博士が湿地帯の健全性とラッコの関わりを突き止めたという話がありましたが、折よく2016年4月4日付のHuffpost Greenに

そのヒューズ博士へのインタビュー記事"Sea Otters Restoring the Balance: 5 Question for Dr. Brent Hughes"が上がっていましたのでご紹介します。

スターウォーズでは、銀河系にはフォースのバランスを再構築するためのヒーローが必要だった。ルーク・スカイウォーカーからエピソード7の新しいヒロイン、レイのように。保全生物学の世界でも似たような、悪化しつつある自然の力のバランスを再構築してくれる、そんな種を見つけ出すための探求が続けられている。そんな英雄が、太平洋に住むラッコだ。私たちはみな、ラッコをカリスマ性のある可愛らしい、モントレー湾付近のケルプ床で戯れている生き物だということを知っている。しかし、この頂点捕食者は、生態系全体のバランスを取り、自然と人間に恩恵を与えていることが明らかになった。この海のジェダイをより深く知るために、私はカリフォルニア沿岸への影響を研究しているブレント・ヒューズ博士にインタビューを行った。

質問1:研究されている太平洋北西の河口域とはどのようなものでしょうか。またその「バランスが崩れている」原因は何でしょうか。

答え:世界中にある他の沿岸生態系と同様に、河口域(陸と海がぶつかっているところ)は人間による脅威にさらされています。河口域はしっかりと陸地に囲まれているため、陸地で起こることは常に最後には沿岸水域にたどり着きます。こうした沿岸息は、農場や都市部に占められている場合、特に肥料による栄養素や排水の流出による汚染から悪影響を受けています。これは沿岸水域の富栄養化に繋がり、例えばアオコ(藻類の大発生)や水中の酸素濃度の低下、魚の死、生物多様性の喪失、海草や塩性湿地のような重要な生物の生息地の減少など、悪い影響をもたらします。一旦バランスが好ましくない状態に移行してしまうと、もとの理想的な状態に戻すのは至難の業です。こうしたことは、沿岸生態系の健全性を維持する使命を負った管理者たちにも問題を提示しています。また、人間にも影響を及ぼします。私たちは沿岸生態系から数々の恩恵を受けているからです。例えば嵐から海岸線を守ってくれたり、重要な漁業から食べるものを得たり、陸由来の汚染物質が海に達しないよう緩衝地帯になったり、また、美的観点からもそうです。

質問2:こうした生態系にラッコが加わることでどのような変化が起こるのでしょうか。

答え:ラッコが沿岸生態系に加わってまず見られる変化は、ラッコのエサとなる生物の個体数の減少です。そうした生物はウニ、カニ、貝などです。ラッコは食欲旺盛な捕食者で、体温を維持するためにたくさん食べる必要があります。多くの海洋哺乳類とは異なりラッコには脂肪層がないため、ただ生き続けるためだけに毎日体重の25%(9kg~11.25kg)を食べなければなりません。つまり、生態系からラッコのエサになる生物が大量に取り除かれることになります。例えば、1頭のラッコは年間1万匹以上のカニを食べることがあります。カニやウニのようなラッコのエサになる生物は生態系に大きな影響を持つため、ラッコは間接的に食物網の下部に位置する植物や動物に影響を及ぼします。このプロセスは「栄養カスケード」として知られています。私たちは、河口域でラッコが健全な食欲により、カニが増えすぎることで悪化した海草や塩性湿地などの貴重な生態系を守り、再構築していることを発見しました。海草にとってラッコはカニを取り除いてくれる。それが海草の表面に生える藻類を食べる小さな無脊椎動物を自由にしてくれるのです。そのため、海草がより健康になるのです。湿地ではラッコはカニを取り除いてくれますが、もしラッコがカニを取り除かなければ、カニは湿地に穴を掘り根を食べ、土地が不安定になってしまいます。だから、本質的には、ラッコは小さな銀河系のバランスを再構築するジェダイのようなものなのです。

質問3:カリフォルニアにおいてラッコの生息域拡大を阻んでいるのは何なのでしょうか。

回答:しばらくの間保全活動を行っている人々にフラストレーションを募らせてきた問いですね。生息域の拡大が進まない理由の一つは、簡単にはラッコの行動によるものです。メスは自分の住んでいるところから余り動かず、一生を小さな行動圏の中で過ごします。だから、カリフォルニア沿岸のラッコの生息域の拡大はかなり遅いのです。最近、生息域の拡大を阻んでいるもう一つの原因は、生息域の北端と南端におけるホホジロザメによる噛みつきの増加です。私たちはこれを「ホオジロザメの挑戦」と呼んでいます。

 

私たちにはホホジロザメの行動を変えることはできません。サメはサメだからです。でも、ラッコの回復のスピードをアップするユニークな戦略を模索しています。サメによる捕食がない地域を見るということです。河口域は最も候補になると思われる生態系です。ここにはホホジロザメはほとんど来ることがなく、ラッコは河口域の生態系に多くの恩恵を与えてくれるからです。ラッコたちはジェダイとしての課題を実行することができるでしょう。

質問4:ラッコは食欲旺盛で、カニやウニなどの海産物を食べます。こうした海産物をとる漁業産業はラッコが生息域を拡大すると悪影響を受けないのでしょうか。

回答:非常に大切な質問ですね。ラッコはたくさん食べる必要があり、ラッコが食べるものは高価なものです。つまり、ラッコがたくさん食べるものは、私たち人間が食べるものと同じです。カニ、アワビ、ハマグリ、ムラサキガイなどです。これは漁業と頂点捕食者の回復の間で競合していると認識さされています。これはまた、捕食者の回復が争点になる初めての例ではありません。良い類似例が、イエローストーン国立公園でハイイロオオカミを再導入です。でも、ラッコと人間の間の問題には、希望があります。

 

ラッコは、何百万年もの間エサとなる動物の全てと共存してきました。つまり、ラッコはエサとなる動物を絶滅に追い込んだことは決してないのです。かつてラッコ猟を行っていたアメリカ先住民も、千年もラッコと共存していました。だから、ラッコと漁業が共存し、あるいは繁栄することもできるのです。しかし、漁業関係者と保全活動家らはラッコの回復によりよく備えるために、協力する必要があります。ラッコの回復と両立することはできない漁業もあるでしょうが、ラッコがもたらしてくれる生態系の変化によって実際恩恵を受ける漁業もあるのです。だから、ラッコが与えてくれる恩恵でもあるバランスは、漁業関係者がラッコの回復を歓迎してくれるだけの価値があるのです。これは、私たちの調査にとって、重要な問いなのです。

質問5:私たちに何かできることはあるのでしょうか。

回答:はい、狭い範囲でいえば、カリフォルニア州の市民はクジラのしっぽの絵がついたナンバープレートを購入することでラッコの調査や保全活動を助けることができます。より広い視点からいえば、一般の方は再構築プログラムや市民科学者プログラムなどのボランティアに参加することもできます。私たちのような環境科学者は通常僅かな予算で活動しているため、在来種の植物を植えたり、水質調査のために水のサンプルを集めたり、生態系のデータを集めたりするのにも地元のコミュニティの人々の協力に頼っているのが現実です。こうした運動で成功した例は、クリスマス・バード・カウントという、クリスマスの日に一般市民が出かけていって野鳥を数え、野鳥の保全に不可欠なデータに使うというものがあります。

 

私自身の研究においては、データの収集に学生やボランティアの力を借りていますが、彼らがいなければ、今ほど沿岸生態系におけるラッコの役割について知ることができなかっただろうと思います。私たちは環境危機の時代に生きています。そうした問題のほとんどを生み出しているのは私たち自身ですが、自分たちだけでその問題を全て解決できると考えるのは間違いでしょう。ラッコのような動物は私たちの味方になってくれるでしょう。バランスを再構築するために、人間とラッコは力を合わせることができるのです。

 

ブレント・ヒューズ博士は、保全生物学David H.スミス研究保全フェローの博士研究員であり、デューク大学・デューク海洋研究所

・生態学部およびカリフォルニア大学ロングマリン研究所の進化生物学部の研究者である。

ウェブサイト:http://research.pbsci.ucsc.edu/eeb/bbhughes/

 

ティム・ワードは有意義な変化を求める専門家やリーダーのための本、The Master Communicator's Handbookの共著者である。

Huffpost Green

Sea Otters Restoring the Balance: 5 Question for Dr. Brent Hughes

By Tim Ward 04/04/2016 02:44 pm ET