【記事】ホホジロザメによる謎のラッコ襲撃が増加 | Mysterious Great White Shark Attacks on Sea Otters Surge

本日は2016年6月23日付のNational Geographicより"Mysterious Great White Shark Attacks on Sea Otters Surge "をお届けします。現在カリフォルニアではラッコの死因の半分以上をサメの噛みつきが占めそれがラッコの回復の妨げとなっています。なぜ食べもしないラッコを噛むのか、はっきりした理由はまだ謎のままです。

カリフォルニアの象徴的なラッコが毛皮貿易で一掃されてから100年後の1930年代、懸命に生き延びた数十頭のラッコたちがモントレー湾南部のビッグ・サーの岩場の下で泳いでいるのが発見された。2008年の感謝祭の日、生物学者のティム・ティンカーはビッグ・サーの険しい岩をロープで下り、荒れ狂う波の中へブギーボードを蹴って、この海洋哺乳類の新たな脅威の拝啓となる謎を解明しようとしていた。

 

ティンカーはラッコの死骸を回収するためにそこにいた。陸に上がり死骸を湿ったバックパックへと入れた。今まで回収された他の数百頭のラッコたちと同じように、このラッコもこの後行われる調査で驚くべき捕食者の犠牲者であることが分かった。その捕食者とは、若いホホジロザメだ。

 

科学者らを困らせていた謎はまだ謎のままだ。ホホジロザメは、この毛むくじゃらの動物をエサにはしないのだ。

 

「私たちの知る限りでは、ホホジロザメがラッコを食べることはありません」とティンカーは言う。ティンカーはアメリカ地質調査所の共同西部生態系研究センター及びカリフォルニア大学サンタクルーズ校の野生生物生態学者である。「いつも、ラッコは丸のまま回収できています」

 

それから8年たっても、科学者たちはなぜそれほど多くのラッコが別の保護海洋生物に噛まれ吐き捨てられているのか説明ができてない。しかし、ラッコがサメに噛まれる件数は爆発的に増加している。ホホジロザメは今やラッコを多く殺しすぎて、ラッコの回復の妨げとなってしまっている。

 

「ラッコの生息域全体で、私たちが見つけたラッコの死骸の半数以上がサメの噛みつきによるものです」とティンカーは言う。「その数は、他の死因全てを合わせたよりも多くなっています。ここ数年、ラッコの生息域北端と南端ではラッコの数が減ってきています」

 

科学者たちはこの奇妙な現象を説明しようと仮説を打ち立ててきた。サメの個体数が堅実に回復してきたことから、サメが実際好んで食べる他の海洋哺乳類の個体数が爆発的に増加したことまで、若いホホジロザメがラッコを間違えて齧ってしまうことへと導くことができる。

 

しかし、科学者たちはまだ十分説明ができないのは不可解だと告白する。(記事  “Why Great White Sharks Are Still a Mystery to Us.”を参照)

 

「私たちには分からない、ということが真実です」とティンカーは言う。

カリフォルニアのピスモビーチからハーフムーンベイにかけて、若いホホジロザメが何百頭とラッコを襲撃しているが、食べるわけではない。PHOTOGRAPH BY CESARE NALDI, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
カリフォルニアのピスモビーチからハーフムーンベイにかけて、若いホホジロザメが何百頭とラッコを襲撃しているが、食べるわけではない。PHOTOGRAPH BY CESARE NALDI, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

謎の行動

ホホジロザメは幼いうちは魚を食べるが、数年後には歯が生え変わり海洋哺乳類、特に脂肪の多いアザラシやアシカを食べるようになる。サメは体温を維持するため、そうした哺乳類の脂肪から多くのカロリーを摂取する必要があるのだ。

 

ラッコの身体はそのほとんどが筋肉、皮、骨、豊かな体毛である。

 

「ラッコのは1平方インチ当たりの体毛密度が他のどの動物よりも高くなっています。その中に空気を溜め込むのです」そう語るのはモントレーベイ水族館のホホジロザメの専門家、サルバドール・ジョーゲンセンだ。「ラッコはそうやって断熱しているのです」

 

ホホジロザメにとってラッコは大したエサとはならないため、ラッコはサメに食べられることがない、とジョーゲンセンは言う。しかし、ホホジロザメが犯人であることは明らかだ。歯型がホホジロザメのものと一致し、病理学者がラッコの死骸の中にホホジロザメの歯の欠片を見つけることもしばしばある。

 

ホホジロザメが誤って噛みつくことがあるということは明らかだ。特に、その犠牲者のシルエットが通常のエサに似ていた場合はそうだ。だからサメは時々、サーフボードや人を間違えて噛んでしまうことがある。

 

「ラッコは少しアザラシに似ています。」とジョーゲンセンは言う。「他にもアザラシと間違えることがあるのは人間ですが、食べられてしまうことはありません」

 

科学者らはホホジロザメは歴史的に間違えてラッコに噛みつくようなこともあったと考えている。1980年の研究でそうしたサメの噛みつきが明らかになった。「しかし、ラッコが15,000頭生息していた5,000年前ならこうしたことが起こったとしてもそれほど大した問題ではなかったでしょう」とティンカーは言う。

 

しかし、今日サンフランシスコの南ハーフムーンベイからサンタバーバラの北西のコンセプション岬にかけて、ラッコの生息数はかろうじて3,000頭を上回る程度だ。

 

科学者を困惑させているのは、2003年初めごろからサメに噛まれるラッコの数は、年に数頭から数十頭にまで急増し始めた。2000年から2013年の間には750頭以上のサメに噛まれたラッコの死骸が見つかったとティンカーは言う。2014年、その数は270も増加した。

 

「その数はかなり驚異的です」とジョーゲンセンは言う。「本当にショッキングです」

 

科学者らは、ラッコが他のものと間違えられ犠牲になったことは確かだということには同意しているようだ。しかし、その後事態は暗澹としてきた。研究者らは誰が噛みついているのか確信がなかった。もっと沖のほうに生息している成体のホホジロザメではないだろうと推定された。とすれば、ラッコを襲っているのはどのグループなのだろうか。

 

「まだうまく噛むことができない若いサメに襲われて瀕死の怪我をしたラッコが多く浜に上がって来るということもありえます」とカリフォルニア州立大学のサメ研究所のクリス・ローは言う。

 

しかし、ローには別の仮説もある。幼いサメではなく、もう少し経験はあるが成体ほどではない、少し成長したサメに噛まれている可能性がある。

 

「噛んだはいいが、ただの大きな毛玉だった。だから食べるほどのものではないと判断した、ということです」とローは言う。

 

しかし、サメの噛みつきがこれほど急増しているということは未だに混乱を呼ぶ。(ある町に侵攻してきたホホジロザメについてはこちらの記事を参照)

 

カリフォルニアの海域に住むサメの正確な個体数については誰も知らないが、サメの個体数が増加しているという証拠はある。シーバスやハリブー(オヒョウ)漁の際、若いサメが漁網にかかることが通年続いたためカリフォルニアの有権者は1980年代中ごろに沿岸近海での刺し網漁を禁止した。2002年ごろから、沖での刺し網にかかるサメの数が増えているが、それはサメの数が激増したことを示すものだ。

 

しかし最近の研究でジョーゲンセンとその同僚らはカリフォルニアにおいて海を利用する者の間で実際サメに襲撃されるリスクは1950年代と比較して90%も減っていると示している。ジョーゲンセンは、サメによる攻撃の比率が単にサメの個体数の多さを示すだけだとしたら、人間の襲撃が増えているだけで減ってはいないのではないかと言う。

 

サメであろうとラッコであろうと、「行動とは違うものが原因ではないかと私は確信しています」とジョーゲンセンは言う。

気候との関連性

ジョーゲンセンらは、他の海洋哺乳類、特にアシカやゾウアザラシの個体数が劇的に増加してきており、新しい生息域に進出しつつあると言う。ショッピングモールのフードコートに向かう買い物客のように、それらの動物はそうした新しい生息域により多くのサメをおびき寄せ、そうした場所でサメもまた偶然ラッコに噛みついてしまう可能性がある。

 

ローは一方で、太平洋東部でここのところ海水温が上昇している間に、通常は海水が冷たい時には南へ移動する若いサメがここ数年前よりももっと北上するようになり、その結果サメがラッコに接触することが増えたのではないかと指摘している。

 

とはいえ、科学者らはこうしたパターンを理解することは非常に重要だということには同意している。人間の介入が必要だからではなく、研究者らが関係性をよりよく理解するためである。ラッコが生息域を拡大するにつれ、ラッコは原油流出から農業汚染、人間由来の病原体に至るまで、人間がコントロールできる他の様々な脅威に直面しているとカリフォルニア州魚類野生生物局でラッコの死を追跡しているマイケル・ハリスは言う。

 

また、この先はどうなるか分からない。気候変動がサメの行動を変えてしまう可能性があるかははっきりしないが、科学者たちはすでに海洋酸性化(海に二酸化炭素が過度に溶け込むことにより変化する海の科学現象)が羅ラッコの主たるエサであるウニに害を及ぼす可能性について研究している。また海水温の上昇により病気が広まったり致死的な毒性藻類の大発生の可能性を上昇させるかもしれない。サメの襲撃は、数多くの問題の一つに過ぎないのだ。

 

「現実に私たちはサメの襲撃がどのような意味をもつかまだ完全には理解できていません」とハリスは言う。「主因が私たち人間に最小化できないものであるとすれば、私たちが最小化できる原因に注意を向けるべきです」

National Geographic

Mysterious Great White Shark Attacks on Sea Otters Surge

By Craig Welch PUBLISHED JUNE 23, 2016