【記事】カナダのラッコを訪ねて | Visiting the Canadian cousins of Monterey Bay’s sea otters

本日は2016年8月3日付のConservation & Science at Monterey Bay Aquariumから、"Visiting the Canadian cousins of Monterey Bay’s sea otters "をお届けします。
モントレーベイ水族館の研究者がカナダのアラスカラッコの調査に参加、様々な違いを実感します。

アラスカラッコの親子Photo by Matthew Morgan Henderson
アラスカラッコの親子Photo by Matthew Morgan Henderson

1984年以来、モントレーベイ水族館のラッコプログラムのチームはカリフォルニアラッコ(Enhydra lutris nereis)の理解と保護のために活動している。ラッコの個体数は1900年代初めの絶滅寸前の状態からゆるやかに回復し、今ではカリフォルニア中央沿岸部の象徴となった。アラスカラッコ(Enhydra lutris kenyoni) はカナダ南西部の沿岸で似たような物語をたどっている。1900年代初めにその地域では絶滅したが、再導入され、その生息域を広げている。

 

今日、ハカイ研究所はブリティッシュ・コロンビア州沿岸の海洋保護区においてラッコの存在がケルプの森をどのように変えてきたのか研究を行っている。この夏、モントレーベイ水族館のラッコ調査コーディネーター、ミシェル・ステッドラーと上席調査生物学者ジェシカ・フジイはカルバート島を訪れ、アラスカラッコの観察を手伝った。ミシェルがその探検の裏を紹介する。

カルバート島とハカイ研究所観測所Photo by Grant Callegari
カルバート島とハカイ研究所観測所Photo by Grant Callegari

パイロットが小型の飛行機を旋回し、カルバート島の端にある狭い水路を飛んだ。ジェシカと私の眼下には船着場、停泊しているボートや木々に埋もれた赤い屋根の建物が見えた。ここが、これから2週間半にわたり私たちの基地となるところだ。

 

私たちの目的地であるハカイ研究所カルバート島観測所は、シアトルの北西400マイル(約640km)にある沿岸研究施設だ。その島へ行く唯一の方法は船かフロート水上機(水上で離発着できる飛行機)だが、天候に左右されやすく、頻繁に霧が出たり嵐になったりするためいつも利用できるわけではない。

カナダ西海岸における冬のラッコ調査

ジェシカと私は、カナダのこの僻地でのラッコの個体群を研究しているハカイ研究所の研究者で博士課程の学生でもあるエリン・レヒシュタイナーと研究を行うため、モントレーからやってきた。ある意味、私たちは、一周して元に戻ったきたともいえる。数年前、エリンはカリフォルニア中央部へ来て、モントレーベイ水族館とその共同研究団体であるアメリカ地質調査所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、カリフォルニア州魚類野生生物局がカリフォルニアラッコの採餌行動のデータをどのように採取しているのかを学んだ。今度は、ジェシカと私はエリンの地元を訪れ、カナダのアラスカラッコの採餌行動の研究の手伝いをするのだ。

ブリティッシュコロンビアで「潜望」しているオスのアラスカラッコPhoto by Monterey Bay Aquarium/Jessica Fujii
ブリティッシュコロンビアで「潜望」しているオスのアラスカラッコPhoto by Monterey Bay Aquarium/Jessica Fujii

島の温室で栽培された新鮮な野菜をランチで食べてから、私たちはエリンに会った。エリンはカナダの水産海洋省の調査生物学者でカナダで回復しつつあるラッコの主導的専門家でもあるリンダ・ニコルと合流していた。

 

話しているうちに、私たちが野外調査のほとんどを行っているモントレー半島沿いのラッコ観察が、ブリティッシュコロンビアのデータ採取とは全く異なっていることに気が付いた。モントレーでは、車に望遠鏡、バックパック、ラジオテレメトリー装置(無線を受信する装置)を積み込み、運転して沿岸沿いの主要な場所をまわる。それぞれの場所で、装置をセットし、ラッコを見つけ、足ヒレについているタグで個体を識別し、食べているものを記録しまた次の場所へ移動する。

複雑なプロセス

ブリティッシュコロンビアでは、もう少し複雑になる。島々の間をボートで移動し、重い装置を持って船から飛び降り、迎えの船が来るまで一か所で数時間過ごす。海の状態によって片道1時間もかかることもある。

 

最初の日、防水性のバックパックに望遠鏡、三脚、iPad、クリップボード、双眼鏡、余分な衣服、雨具、軽食を詰めたら、全部で40パウンド(約36kg)ほどにもなった。防水のブーツを履き、寒冷な海のそばで仕事をする際には必須の重いフロートコートをはおった。小さなボートTsitika号に乗り、観察スポットへと向かった。

アラスカラッコの群れPhoto by Hakai Institute/Josh Silberg
アラスカラッコの群れPhoto by Hakai Institute/Josh Silberg

間もなく島の裏にひしめくラッコの群れに遭遇した。100頭ほどもいた。エリンはそのラッコは全てオスだと言う。カリフォルニアではラッコの群れはもっと小さく、平均10頭ほどだ。私たちがよく見るのは、1頭の縄張りを持つオスと数頭のメス、子どものいるメスからなる群れだ。縄張りのない若いオスや年老いたオスは、そうした縄張りとは離れた別の場所に、小さな独り者ラッコの群れをつくる。

6時間のシフト

私たちは飛び出た岩のほうへ近づいた。そこでその後数時間を過ごすのだ。エリンは滑りやすい岩に注意深くボートをつけた。バックパックを背負い、ボートのへさきに立ち、岩に飛び移るいいタイミングを待っていた。岸に上がると、船の無線をチェックし、エリンも船を下りた。

 

私は岩の比較的平になっている部分によじ登り、観察用の望遠鏡を設置し、そのエリアを見て視野にいるラッコを数えた。西側には太平洋が開けていた。島々に砕け散る波が、海水を高さ30フィート(約9m)ほどまでしぶきを上げた。北側と南側には、森と岩の多い入り江が無限に広がっていた。

 

エリンとジェシカとリンダはそれぞれTsitika号がつけてあるそばで観察装置をセットした。ジェシカが向こうの貝殻が散乱していることから「シェル・リター・ロック」と呼ぶ岩の上で、望遠鏡をのぞいているのが見えた。

ミシェルの観察スポットPhoto by Monterey Bay Aquarium/Michelle Staedler
ミシェルの観察スポットPhoto by Monterey Bay Aquarium/Michelle Staedler

落ち着いたあとの静けさは驚くべきものだった。モントレーでは、ラッコを観察している時には後ろで車の往来の音や通行人の話し声や波の音が聞こえる。ブリティッシュコロンビアでは静かな風の音や、海岸に寄せる波、時折聞こえるラッコが出す音ーカニをかじったり、貝を打ち付けたり、他のラッコがエサを盗もうとするのを避けて跳ねたりする音が聞こえるだけだ。

 

ほとんど、静かなものだった。

 

ラッコたちはジェシカの近くにとどまり、水路の中ほどで泳いだりミル貝やミドリウニやカニを食べたりしていた。貝は巨大で、ラッコの手を4つ横に並べたくらいの大きさだった。モントレー湾でこれほど大きな貝をみたことはない。

常に警戒態勢

最初、ジェシカの周りにいたラッコたちはジェシカがいたことに気づいているようだった。ジェシカはしっかりと静かに立ち、採餌データを収集していた。風向きが少し変わり、1頭のオスがなじみのない匂いを感じてジェシカに気が付いたようだった。そのオスは、上半身の3分の1ほどを水面から出してジェシカの方を見渡し、エサを取りにどこかへ潜っていってしまった。

 

カリフォルニアでは、メスのラッコはオスと交尾している間鼻に傷を負う。カリフォルニアラッコのオスで鼻に怪我をしているのはあまり見ない。ブリティッシュコロンビアでは、ラッコはカリフォルニアのラッコよりもかなり大きい。モントレー湾のオスが65パウンド(約29kg)であるのに対し、ここでは1頭が約83パウンド(約37kg)もあり、鼻にピンク色の傷があるラッコがいくらかいた。

アラスカラッコ。鼻に傷がないのは珍しいPhoto by Grant Callegari
アラスカラッコ。鼻に傷がないのは珍しいPhoto by Grant Callegari

オス同士がミル貝のような大きなエサをめぐって争うのを見ていて、その理由がはっきりした。こんなに餌が豊富にあるのに、なぜ取り合いをするのかははっきりわからない。自分のものだと言い張っているのか、単純に自分で潜ってエサを取りにいくより他人のエサを横取りするほうが楽だからなのだろうか。

 

エリンがラッコの行動や採餌習慣を追跡したものは、ケルプの森や海草棚、潮の満ち引きのある岩礁や軟弱堆積物のある生態系などにおいてラッコがどのような影響を与えているかというハカイ研究所の広域研究に役立っている。これはカリフォルニア中央部でもなじみのあるストーリーで、かつてラッコが繁殖していたが絶滅近くまで乱獲され、その後保護されてゆっくり回復した。沿岸生態系に対し、ラッコの存在がどれほど重要なのかということを、私たちはまだ知り始めたばかりだ。

現在、数千頭に

1970年代ごろ、研究者らがバンクーバー島の西岸に89頭のラッコを再導入した。これらのラッコは、核実験のためアリューシャン列島から排除されたもので、アラスカから来たラッコたちだった。ブリティッシュコロンビアの中央沿岸部のラッコは意図したものではなかった。生物学者らは、それらのラッコはバンクーバー島のラッコの派生郡であると考えている。1990年代後半、ブリティッシュコロンビアのラッコは約1,000だった。今日、リンダとその同僚たちは7,000頭ほどと見積もっている。

カルバート島の夕暮れPhoto by Monterey Bay Aquarium/Jessica Fujii
カルバート島の夕暮れPhoto by Monterey Bay Aquarium/Jessica Fujii

ジェシカと私はこの重要なラッコの調査に携わるという幸運を得た。この調査はハカイ研究所を通じ非営利団体のトゥラ基金から援助を受けたものだ。トゥラ基金の寄付者であるエリック・ピーターソンとクリスティーナ・ミュンクはモントレーベイ研究所の創立者であるデビッド・パッカードに影響を受けた。パッカードはこう言って研究者らを励ました。「リスクを負え、疑問を持て」

 

私たちは来年もこの場所に戻ってこの場所のラッコ、シャチ、オオカミ、ミンク、カラス、カナダヅルなど、より多くの発見ができたらいいと思っている。エリンの第一の発見は、アラスカラッコは季節によりエサの種類やエサを獲る場所を変えるということだ。冬には湾内に避難して貝を食べ、夏にはウニや岩礁に現れるムラサキガイを食べる。

 

ブリティッシュコロンビアの中央沿岸部のアラスカラッコの調査を通じ、私たちはカリフォルニアの中央沿岸部で危機に瀕するカリフォルニアラッコへの洞察を得、私たちは様々な点でつながっているという理解を深めることができた。

Conservation & Science at Monterey Bay Aquarium

Visiting the Canadian cousins of Monterey Bay’s sea otters

August 3, 2016