【記事】ロングマリン研究所-科学者と動物は研究パートナー | At Long Marine Lab, scientists and marine mammals are partners in research

本日は2016年11月14日付のUniversity of California Santa Cruz News CenterからAt Long Marine Lab, scientists and marine mammals are partners in researchをお届けします。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校は海洋生物学では全米でもトップクラスで、大規模な研究所を擁しています。国の機関やNPOなどとも協同し、海洋環境や海洋生物の研究で多くの成果を上げてきました。

ラッコからモンクアザラシまで、動物たちはその生物学の隠された面を明らかにし、研究者たちが野生の海洋哺乳類が直面する問題を理解する手助けをしている

若いメスラッコのセルカは、大変な人生を経て、カリフォルニア大学サンタクルーズ校ロングマリン研究所にたどり着いた。生後1週間の赤ちゃんの時に座礁し、モントレーベイ水族館に保護され、リハビリを受けた。その後野生に返されたが、サメに襲われたり、毒のあるエサで中毒になったり、沖で迷子になったりと困難が次々と襲い掛かった。

このように座礁、リハビリ、リリースというサイクルを何度も繰り返し、セルカはアメリカ魚類野生生物局(USFWS)から野生に返すことができないと判定された、2014年、セルカはロングマリン研究所でコリーン・ライヒムースの研究プログラムに加わり、ラッコがどのようにエサを探すかという大学院生のサラ・マッケイ・ストローベルの研究を手伝った。

 

「私たちは、実際、ラッコが水面下でどのようにエサを探すのかということについて全く知りません。水面でエサを食べてくれるので何を食べるかについては知っています。ラッコは水中で多くの時間を費やしますが、そこで何をしているのか私たちは本当は知らないのです」と鰭脚類認知感覚器研究所のライヒムースは言う。

 

セルカと研究活動を行うことで、研究者らはラッコが水面下でエサを見つけ特定する際にどのように感覚を利用するのかを知る手助けとなった(結果、セルカは両手とヒゲに鋭い触覚を持っていることが判明した)。セルカはまた野生のラッコの採餌行動の研究において、実地的な調査方法を発展させる手助けをしてくれた。

 

セルカは現在、モントレーベイ水族館に戻り、将来的に親を失った子どものラッコの代理母となってくれるものと期待されている。その間、ロングマリン研究所では他のラッコたちが、そもそもなぜ赤ちゃんが捨てられてしまうケースが多いのかを理解するために、研究者たちを手伝っている。

大学院生のサラ・マッケイ・ストローベルはロングマリン研究所でラッコのセルカと研究活動をしている。セルカは複数回にわたる保護、リハビリ、リリースを経て、野生に返すことができないと判定された。(Photo credit: pinnipedlab.ucsc.edu)
大学院生のサラ・マッケイ・ストローベルはロングマリン研究所でラッコのセルカと研究活動をしている。セルカは複数回にわたる保護、リハビリ、リリースを経て、野生に返すことができないと判定された。(Photo credit: pinnipedlab.ucsc.edu)
クララとその子どもは、妊娠中・子育て中のメスラッコの代謝に関する重要なデータを研究者に与えてくれた。(Photo by Joe Tomoleoni)
クララとその子どもは、妊娠中・子育て中のメスラッコの代謝に関する重要なデータを研究者に与えてくれた。(Photo by Joe Tomoleoni)
ワモンアザラシのナヤックは子どもの頃アラスカで座礁していた。現在、生物音響学の研究に参加している。(Photo credit: pinnipedlab.ucsc.edu)
ワモンアザラシのナヤックは子どもの頃アラスカで座礁していた。現在、生物音響学の研究に参加している。(Photo credit: pinnipedlab.ucsc.edu)

ラッコの代謝

生態学・進化生物学教授テリー・ウィリアムスとポストドクターの研究員ニコル・トメツはモントレーベイ水族館のラッコプログラムと協同しメスラッコが子育てをするにあたりどのくらいの代謝エネルギーが必要かの研究を行っている。その答えは、「たくさん」であり、非常に多くのエネルギーを要するため、ラッコの母親は自分自身と成長過程にある子どもを維持するため野生では十分なエサを見つけることができない。

 

「そうしたメスラッコたちが子どもが生まれ子育てを終えるまでに必要なエサの量は膨大なため、野生におけるコンディションは万全でなければなりません。モントレー湾ではエサが十分ではないところもあります。それが子どもが捨てられてしまう主要な理由となっています」とウィリアムスは言う。「この研究所で研究することができなければ、こうしたことは知ることができなかったでしょう。この研究は捨てられたラッコのリハビリ後についての私たちの考え方を大きく変えました。ラッコたちはリハビリ後同じ環境へ戻るべきなのでしょうか。それとも、闘うチャンスを与えるために、そうしたラッコたちをより生産的な場所へ放してあげるべきなのでしょうか」

 

ウィリアムスと研究活動をおこなった動物たちの中には研究プログラムに参加した後野生に戻されるものもいる。「オールド・レディ」として知られる役13歳の妊娠中のラッコはその予定だ。そのメスラッコは交尾の際、雄により顔に恐ろしいほどの傷を受け、モントレーベイ水族館に運び込まれたが、食べることもままならず野生では生きていけない状態だった。

 

オールド・レディは検査の結果妊娠していることが判明し、ウィリアムスとそのチームは出産、子育てを通じてその妊娠しているラッコのリハビリとサポートに協力することを承諾した。その過程でウィリアムスらは毎週代謝とカロリー需要を計測し、野生のラッコの母親が必要な量をよりよく知ろうとしている。

 

「子育てが終わったらすぐに、オールド・レディとその子どもを野生に戻してあげられたらいいのですが」とウィリアムスは言った。「この親子が生きていくにあたって最良のチャンスがあるよう、リリースしてあげたいです」

長期滞在の動物たち

しかし、中には野生でうまくやっていくことができないものもおり、研究所の長期滞在者となり研究パートナーになるものもいる。現在、ロングマリン研究所の動物たちは海洋哺乳類水槽の改装工事の間、仮設舎で過ごしている。その多くは水族館や、カリフォルニア大学サンタクルーズ校コースタルサイエンスキャンパスに近い、カリフォルニア魚類野生生物局の海洋哺乳類獣医学ケア研究センターで暮らしている。

 

ハワイモンクアザラシのキコアは州の野生生物施設で暮らすそうした動物たちの一員だ。キコアはオスの成獣で体調9フィート(約2.7m)、野生から隔離されたのは、同じモンクアザラシの子どもやメスを攻撃していたからだった。ハワイモンクアザラシは世界中の海洋哺乳類中でももっとも絶滅危惧されているものの一つで、野生には役1,100頭しか生息していない。だから、子どもやメスの1頭が失われれば種全体にとって大きな影響を及ぼす。

 

「キコアはハワイモンクアザラシの個体群に対して非常に破壊的だったため、選択肢はほとんどありませんでした」とウィリアムスは述べた。「実物を見ずに、キコアのケアをすることに同意しました。もちろん不安でしたが、その不安も理由がないものでした。キコアは最良の研究パートナーの1頭であり、教育プログラムにおいても素晴らしい成果を上げていて今やスターとなり、子どもたちに海洋保全について教育しているのです」

 

有酸素代謝潜水限界(ADL)の特定など、ウィリアムスが研究所でモンクアザラシと行っている研究の多くは保全活動に直結している。ハワイ沿岸で人間とモンクアザラシが接触することにより、アザラシの中にはさらに沖の深い海へ行ってしまうものもいる。ウィリアムスの研究室の研究者たしはモンクアザラシの独特の生物学を明らかにし、海洋保護区計画に情報を提供し、モンクアザラシが生きていける最良のチャンスを与えることができる。

セカンドチャンス

キコアやセルカの生い立ちはロングマリン研究所の研究プログラムにいる動物たちの中では特別なものではない。「たくさんの動物たちがここでセカンドチャンスを得てきました」とライヒムースは言う。

 

ラッコのような絶滅危惧種にとって、セルカのような若い繁殖期のラッコが野生でうまくやっていけないことや、オールド・レディのように怪我を負ってしまうことは残念なことだ。しかし、研究者に協力し、私たちの動物たちの素晴らしい認知能力や感覚能力などの生物学の知識や理解を深めることにより、自分たちの種の福祉に貢献することもできるのだ。

 

ライヒムースのアシカの研究により、かつては人間に限られていると思われていた長期記憶や認知能力があることが明らかになった。またライヒムースはアザラシやアシカの聴覚の鋭さに関する集中研究を行い、海洋環境における人間由来の騒音の影響を理解するのに重要な情報を得ることができた。ライヒムースは現在、北極圏における石油やガス開発の増加による障害に対して脆弱な、氷洋のアザラシの感覚生物学や生理学を研究している。

 

1978年にロングマリン研究所が開設されて以来、研究所の海洋哺乳類研究者は常に膨大な科学的成果をあげてきた。こうした研究プログラムが保全活動の結果に常に直結しているわけではないが、こうした動物の生物学について知られていることは非常に僅かなため、基本的な生理学的な計測値を得られるだけでも、動物たちが野生において直面する困難を理解するうえで役立つのだ。

 

「こうした機会を利用し動物たちに対しプラスになる方法でできるだけ多くを学び取るのは道義に反することではないと思います」とライヒムースは言う。「こうした動物たちの生物学や感覚・認知能力の隠れた面を明らかにするためには、動物たちとの多くの訓練や密な協力が必要です。世界中でも、このような研究ができるとのことは他にないと思います」

 

ロングマリン研究所の長期滞在の動物たちとの研究は動物とそれにかかわる人間との信頼関係に頼る協力モデルに基づいている。つまり、動物たちは、嫌だと思うことは何一つする必要がないのだ。

 

「これは動物に力を与えます。動物たちの環境において、何をするかを学ぶのは動物たちだからです」とライヒムースは言う。「私たちは動物たちの好奇心や熱心さを育みます。非常に魅力あることです。だから、動物たちはこうした研究に一生懸命参加してくれるのです」

他にないプログラム

ロングマリン研究所では、海洋哺乳類水槽の工事中、仮設舎にいる動物たちとの研究活動はスローダウンしている。その間、ライヒムースとウィリアムスは他にない研究プログラムを継続するために必要な資金の維持に心を悩ませている。動物たちを健康に保ち十分食べさせるには多額の費用がかかる。連邦研究機関における予算は厳しく、助成金を得ることがさらに難しくなる。

 

「科学者と動物がともに研究を行うことで学べることは非常にたくさんありますが、すべては資金とそれを得られる機会にかかっています」とライヒムースは言う。

 

「野生で生きていくために何が必要なのか動物たちに尋ねることができれば、保全活動そのものがどれだけ変わるか、想像してみてください」とウィリアムスは言う。「私たちが研究所で行っているのは、そういうことなのです」

 

海洋哺乳類研究に対する資金を得ることはカリフォルニア大学サンタクルーズ校キャンペーンの一部であるコースタル・サステナビリティ・イニシアチブにとって最重要課題の一つである。

University of California Santa Cruz News Center

At Long Marine Lab, scientists and marine mammals are partners in research

By Tim Stephens November 14, 2016