【記事】ラッコは情報の宝庫 | A Furry Treasure Trove of Information

本日は2016年9月23日付のHakai Magazineより、"A Furry Treasure Trove of Information"をお届けします。少し前の記事になりますが、最近このラッコについての後日談があがったので、先にこちらの話をお届けします。

ある動物の終焉から多くのことを学ぶ

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キャルバート島の太平洋に面した50kmの海岸線にはあらゆるものが漂着する。日本の津波のがれき。何百万ものクラゲ。ガラス製の浮き玉。絡まったケルプ。しかし6月の終わり、予期しない毛の塊が流れ着き、ハカイの研究者らはざわめいた。

 

ブリティッシュコロンビア州公園のブリー・マシューマンとロブ・ネルソンはHakai Lúxvbálís Conservancyで通例のトレイルチェックを行っていた。その時、ハカイのキャルバート島フィールドステーションから起伏のある土地を45分歩いたところにあるキャルバート島のトレイルの端に、何かあるのに気が付いた。

 

「彼らは、セブンスビーチにラッコの死体があると言いました。潮が満ちてきていたので、死体を回収するために走らなければなりませんでした」とハカイの研究員エリン・レヒシュタイナーは言う。レヒシュタイナーは研究所付近の海でラッコをモニターしているが、その日は悪天候のため運よく早めに戻ってきていた。

ラッコが打ち上げられているのが見つかったセブンスビーチは、カルバート島フィールドステーションから歩いて45分の場所だPhoto by Keith Holmes
ラッコが打ち上げられているのが見つかったセブンスビーチは、カルバート島フィールドステーションから歩いて45分の場所だPhoto by Keith Holmes

フィヨルドや島が多いため、ブリティッシュコロンビアの海岸線は25,725kmに及ぶ。これはオーストラリアの海岸線と同じくらいになる。海岸の多くは人口がの中心部から離れており、ボートでのみアクセス可能だ。

 

つまり、浜に打ちあがった海洋哺乳類の死体は人間が見つける前にハゲワシやオオカミ、クマなどが食べてしまうということになる。しかし、このラッコの死体は、死んでから1日たっておらず、ジャーマンシェパードほどの大きさの体にめぼしい傷はなく、ハカイのキャルバート島フィールドステーションから近いアクセス可能な場所にあったのだ。

ラッコの歯科医は1週間留守にしなければならなった。この高齢のオスのラッコは、歯感染症が死因のようだったPhoto by Erin Rechsteiner
ラッコの歯科医は1週間留守にしなければならなった。この高齢のオスのラッコは、歯感染症が死因のようだったPhoto by Erin Rechsteiner

「そのラッコは本当に重く、私たちが到着した時には波が被りかけていました。そこで、流木でそりのようなものを作ってラッコの死体を括り付けました」とレヒシュタイナーは言う。「丘の上は、担架を担ぐようにして運びました。そのラッコは死後硬直から解けかけていました。急なトレイルを力の抜けた90パウンド(40kg)の死体を運ぶのは、本当に大変でした」

 

仲間の研究者やハカイのスタッフと這い登るようにして、レヒシュタイナーとその仲間たちはなんとかラッコをリサーチステーションへ運び、標本を採取し死体を検死(動物の解剖*)に送る準備をした。

 

研究所では、その日4人のラッコ生物学者らが偶然居合わせた。カナダ水産海洋省海洋哺乳類学者のリンダ・ニコル、ラッコ研究者のミシェル・ステッドラー、モントレーベイ水族館のジェシカ・フジイがそのラッコを観察した。

 

「歯が2本折れていました。歯の近くに大きく感染したあとがあったようです」とレヒシュタイナーは言う。ラッコのような肉食獣にとって、歯の感染症はよく見られる自然死の原因だと説明した。

 

更に、レヒシュタイナーは研究所のテーブルの上に寝かせたラッコがどのラッコか分かった。そのブロンドのラッコには、見間違えるはずのない鼻の傷があった。このラッコが打ちあがる数年前、レヒシュタイナーはこのラッコが研究所のステーションから5分ほどのウエスト・ビーチ沖でエサを食べているところを見ていたのだ。

 

1頭の動物の死から、私たちはその人生についてあらゆることを学ぶことができる。ヒゲに含まれている化学物質を分析すれば年を経るごとにそのラッコの食生活がどのように変化してきたのかが分かる。歯にある年輪は、木のように、年齢を特定することができる。

キャルバート島のフィールドステーションの研究所に再び戻ってきたかわいそうなラッコPhoto by Erin Rechsteiner
キャルバート島のフィールドステーションの研究所に再び戻ってきたかわいそうなラッコPhoto by Erin Rechsteiner

動物の中でも最も柔らかい豊かな毛皮の標本は遺伝学的な情報をもたらしてくれる。様々な技術を用いて1頭のラッコの人生全体が一つに浮かび上がる。このラッコはまた、ハカイの研究者たちが2013年以降集中的にモニターしている仲間のラッコたちの謎を解明するのに役立ってくれるのだ。

 

ブリティッシュコロンビアでは、ラッコは19世紀のヨーロッパの毛皮交易時代に一掃されてしまった。30年以上前、キャルバート島の北西35kmのところでラッコの群れが発見された。ブリティッシュコロンビアの中央沿岸部の個体群は現在約1,000頭で、それ以降ゆっくりと生息域を広げている。

 

遺伝学を通じ、私たちは中央沿岸部のラッコが毛皮交易の生き残りなのか、1960年代~70年代にラッコが再導入されたバンクーバー島やアラスカ南東部から流れ着いてきたのか、知ることができる。

 

今のところ、レヒシュタイナーと彼女の仲間は待たなければならない。ブリティッシュコロンビア州農業省のステファン・ラヴァティが検死を行うが、それにより感染症を起こした歯がそのラッコを死に至らしめたのかどうか確定することができる。ヒゲや遺伝子の標本は、調べるのに少し時間がかかる。

 

「歯以外は極めて健康に見えました。脂肪もたくさんありました。体重もありました。一生のうち、一度だって食事を抜いたことなどないような感じでした。そのラッコをずっと担いだ翌日、ひどい筋肉痛になりあした」とレヒシュタイナーは言う。

 

そのラッコの死はだれにも知られずに済まされてしまったかもしれないが、偶然最後に眠りについた場所のおかげで、私たちはそのラッコの人生について学び、それがそのラッコの遺産になるのだ。

 

*ラッコはカナダの絶滅危惧種法で特別懸念種に指定されている。このラッコはカナダ水産海洋省の許可証RR 16-0247のもと、訓練を受けた専門家が取り扱っている。

Hakai Magazine

A Furry Treasure Trove of Information

September 23, 2016