【記事】USGSとNASAが野生生物の「ソーシャルネットワーク」研究を助ける | USGS and NASA Team Up to Help Scientists Study the “Social Networks” of Wildlife

本日は2018年2月22日付のUSGS(アメリカ地質調査所)のニュースから、"USGS and NASA Team Up to Help Scientists Study the “Social Networks” of Wildlife"をお届けします。以前からタグ付きのラッコをみていてタグにGPS機能を付けられないのかなぁと思っていたので、まさに同じことをすでに開発していると知り、さすが素人が考えることは専門家も考えるよなぁ!と思いました。こうした技術の発達が、動物の保護や生息圏の保全に活かされるって素晴らしいですよね。

野生生物の「ソーシャルネットワーク」を研究する

未来の野生生物追跡では、ラッコは自分たちのソーシャルネットワークを持っているかもしれない

私たち人間が携帯電話やタブレットを持ち歩いているように、ラッコも太陽電池のついた小さなタグを足ヒレに付けている。ラッコが海面で集まって昼寝をする時、タグが作動しお互いに記録し合う。その日、そのラッコがどこで、いつ他のラッコと接しただろう?

アメリカ地質調査所(USGS)西部生態系研究センターとアメリカ魚類野生生物局の研究者らがカリフォルニア沿岸でカリフォルニアラッコを探している
アメリカ地質調査所(USGS)西部生態系研究センターとアメリカ魚類野生生物局の研究者らがカリフォルニア沿岸でカリフォルニアラッコを探している

アメリカ地質調査所(USGS)のジョセフ・トモレオニとオレゴン州立大学のザッカリー・ランデルにとって、そうした未来はラッコの集団の構成や動き、分散、生存率、個体間における感染症の伝播の理解をより深めてくれるだろう。現在、トモレオニやブライアン・ハットフィールドのようなUSGSの生物学者は、陸上からラッコを追跡する際に無線送信機や双眼鏡、強力なスポッティングスコープ(訳者注:上の写真で研究者が使っている望遠鏡のようなもの)を使っている。一度に数時間、研究者らは苦労してカリフォルニア沿岸沖のラッコの位置や行動を記録する。

 

しかし、この長時間にわたる労力の多いプロセスは、天候が協力的であってはじめて可能になる。嵐がうなるような日や、そうでなくても沿岸の状態が好ましくない時は、研究者らはラッコのデータを集めることができない。トモレオニやランデル、ハットフィールドは、日中の天候が良い時にだけしか浜からラッコの調査を行うことができないため、ラッコの生態学の全体図ではなく、ほんの一部分しか得ることができない。

 

ラッコや他の野生生物に関して、多くの情報を集め易くしその量を増やすため、USGSの研究者らはアメリカ航空宇宙局(NASA)とチームを組み、新しい野生生物追跡タグの設計を行った。第一に軽く、太陽光発電ができるGPSユニットで、スズメほどの小さい動物の動きや行動を研究することができるものだ。第二に、研究者が野生生物の「ソーシャルネットワーク」を研究する道を開くピア・ツー・ピア(訳者注:対等な者同士がお互いに繋がり合う状態)ネットワークタグだ。

エンジニアと生物学者

GPSタグは野生生物やその生活圏を研究する生物学者にとっては頼りになる装置だ。このタグの長所は、衛星や人間が利用する携帯電話と同じネットワークにより受信される無線装置を用いて、動物の位置を正確に計算する能力だ。

 

しかし、装置に電源を供給したり、データを転送したりするのに必要な電気のほとんどは小さな電池に蓄えられる。電池が大きくなればより多くの電気を供給でき、より長期間データを集めることができるようになるが、動物はより重いものを身に付けなければならなくなる。

 

「新しいタグは、ホッキョクグマからスズメまで、幅広い動物に装着することを考えています」と野生生物学者でそのプロジェクトのUSGSのリーダーであるスーザン・デラクルスは言う。

 

これを実現するため、デラクルスとUSGSの仲間はNASAのエンジニアのチャド・フロストとダイン・ケンプとチームを結成し、正確性や精巧性、そのサイズや重さに対する持久性を妥協しないGPS装置を設計することになった。1年のうちにそのチームは実際に動くプロトタイプ(試作品)を作成した。現在のモデルの4分の1の価格で製造することができ、家の鍵の僅か3分の1の重さの、太陽光発電のGPSだ。

USGSとNASAは野生生物研究者らの調査を助ける目的で、小型のGPSのプロトタイプを共同開発した。新しいタグは家の鍵の重さの3分の1程度になる。
USGSとNASAは野生生物研究者らの調査を助ける目的で、小型のGPSのプロトタイプを共同開発した。新しいタグは家の鍵の重さの3分の1程度になる。

USGSの野生生物学者とチームメンバーのマイケル・カサザは、カリフォルニアのセントラルバレー内の水鳥の動きと生活圏を研究するためこのプロトタイプを使用する計画だ。カサザの研究は、地主やアヒルのハンティングクラブ、非営利の保全グループなどが、毎年パシフィック・フライウェイ(訳者注:米大陸の西海岸沿いにアラスカ・中米間を移動する渡り鳥の経路)を渡る何百万羽もの水鳥のため、セントラルバレーの湿地帯生息域を管理するのに役立つ。

野生生物の「ソーシャルネットワーク」を垣間見る

現在、USGSとNASAのチームは新しい太陽光発電のGPSをピア・トゥ・ピアのネットワーキングタグと合わせる試みを行っている。これまでのGPSタグは1頭の動物の場所のデータを蓄積するものだった。ピア・トゥ・ピアネットワークが可能になればタグを装着した動物が同じ範囲に集まれば、タグがお互いにデータをシェアすることができるようになる。タグがデータを集める率を追跡することで、研究者らはその種における繋がりや生息圏における分布、その他の複雑な疑問点について学ぶことができる。

 

また、プロトタイプのタグは衛星に大量の情報を転送するために貴重なエネルギーを必要としない。その代わりに基地局と低電量で通信ができ、あるいはより大きく電量の多いタグを使えば、大型の動物の背中からより多くのデータを蓄積することやこのデータを衛星もしくは携帯電話のネットワークを通じてより遠くに転送することもできる。

USGS-NASAのフリッパータグのプロトタイプの最終形。USGSの研究者らは沿岸におけるラッコの生活からより多く学ぶため、ラッコに初めてこのタグを装着する予定だ。
USGS-NASAのフリッパータグのプロトタイプの最終形。USGSの研究者らは沿岸におけるラッコの生活からより多く学ぶため、ラッコに初めてこのタグを装着する予定だ。

デラクルスはいずれ、カリフォルニアのサンフランシスコ湾の回復しつつある感潮沼沢地や管理下にある水鳥の生息域うを利用する渡り鳥や越冬する鳥による異種間の相互接触を理解するため、この新しいタグを利用するつもりだ。その結果は、アメリカ魚類野生生物局や他の当局が、パシフィック・フライウェイを移動する際にサンフランシスコ湾のような沿岸河口域に食料や滞在地を必要とする渡り鳥を管理する上で役立つだろう。

 

トモレオニやランデル、ハットフィールドのような生物学者はアメリカ魚類野生生物局(FWS)に野生生物やその生息圏の保全や管理に関する情報を与えるのに役立つ科学的な情報を提供している。数年にわたり個体数現象があったのち、FWSは1977年の絶滅に瀕する種の保存に関する法律の下、カリフォルニアラッコを「絶滅危惧種」に指定した。ピア・トゥ・ピアネットワークタグがあれば、USGSの生物学者らはラッコがどのように、どのくらいの頻度でお互いに接触しているのかを詳しく知ることができるようになる。そのような情報は、FWSや他のパートナーがホホジロザメによる襲撃などの脅威がどのように個体数に影響を与えているのかを予想するのに役立つ。そうした発見は、現在FWSが行っているラッコの個体数を増加させる試みや、かつてラッコが繁栄していた生態系における独特なプレゼンスを再構築する役に立つだろう。

野生生物追跡タグの未来

USGSの野生生物学者ジョシュ・アダムス率いる別の協働プロジェクトはピア・トゥ・ピアネットワークタグをバイオセンサーと組み合わせることを目指している。アダムスとその仲間はピア・トゥ・ピアネットワークタグを使い、アホウドリのような海鳥がエサを獲る際どのように嗅覚を利用するかを明らかにする予定だ。

 

アダムスはNASAのエンジニアやカリフォルニア大学デイヴィス校の研究者からなる別のチームと協働し、硫化ジメチル(DMS:顕微鏡でしか見えない微生物が海水表面で同じように小さい植物の細胞とぶつかったり食べたりした際に生産される化学物質)を検出できる小さなカーボンナノチューブのセンサーを開発している。

 

「硫化ジメチルは、海が独特なにおいがするそのもとになる物質の一つです。海で調査を行っていると、海の匂いが違うとか新鮮だとか、海の匂いは海の生産性を示していると話すこともあります」とアダムスは言う。

 

アダムスは海で何千羽もの海鳥を追跡してきた。硫化ジメチル(DMS)の濃度が変わるとそれに対応して海鳥の飛行行動が変わるという仮説を立てている。DMSの濃度が高い場所では、海の食物網を通じて太陽エネルギーを魚や海鳥、海洋哺乳類などの大型の捕食者へ移行させている極小植物や動物を含む、食物網が健全な傾向がある。DMSセンサーとピア・トゥ・ピアネットワークタグが一緒になればアダムスやその仲間たちは海洋環境がどのように海鳥のナビゲーションや動きや採餌行動に影響を与えるのかをより深く知ることができるだろう。DMSと海鳥の行動は強く結びついているため、鍵になる海鳥の生息域の特定や保全を助け、また海洋沖における再生エネルギーの開発場所の計画の助けになるだろう。

USGSの野生生物研究者ジョシュ・アダムス(右)が仲間と早朝に海鳥の調査へ赴く。(Credit: Emily (Emma) Kelsey, USGS Western Ecological Research Center)
USGSの野生生物研究者ジョシュ・アダムス(右)が仲間と早朝に海鳥の調査へ赴く。(Credit: Emily (Emma) Kelsey, USGS Western Ecological Research Center)

将来的には、デラクルスはNASAと開発した新しいGPSタグを、USGSとNASAが作った別の製品(USGSパシフィックアイランド生態系調査センターのイベン・パクストンと協働で開発した3Dプリンタで制作した電池)とを組み合わせたいと考えている。この技術は既存のパーツに依存することなくエンジニアが自身でバッテリーを作り、装置を生産することを可能にする。恐らくいつか、研究者らは昆虫に装着できるほど小さなバッテリーを作りだすことができるかもしれない。こうしたバッテリープロジェクトの結果は、GPSタグを小型化するというデラクルスのゴールをより現実に近づけてくれるだろう。

 

新しい小型のタグとネットワーク技術により、世界中の生物学者らは様々な生態系におけるより信頼できる野生生物の調査研究を行うことができるようになる。内陸の湿地帯から外海に至るまで、科学者らは地球の独特の環境を、野生生物の助けを借りつつ、学ぶことができるようになるだろう。

 

このプロジェクトはNASAとUSGS西部生態系調査センターにより行われている、USGSイノベーションセンターが資金提供を行っている。他にも、モントレーベイ水族館、カリフォルニア魚類野生生物局、海洋哺乳類調査ユニット、オレゴン州立大学、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、カリフォルニア大学デイヴィス校がパートナーとなっている。