【記事】ラッコの驚異的な触覚 | Decisive sea otters distinguish differences by touch

久しぶりにラッコに関する記事があがってきました。2018年9月17日付のカリフォルニア大学サンタクルーズ校のニュースから、"Decisive sea otters distinguish differences by touch"をお届けします。暗い海の底でエサを探す際、ラッコは驚異的に敏感な手とヒゲの触覚を使っていることが分かりました。1ミリ以下の差が一瞬で判別できるって本当に驚きです。

ロングマリン研究所での研究が、ラッコの手やヒゲの繊細さや感知できる情報を迅速に処理する能力を明らかにした。

ラッコがエサを獲る戦略に関して研究を行うのは至難の業だ。近くに人間のダイバーがいたら野生のラッコはエサを獲るのをやめてしまうからだ。モントレーベイの視界の悪い海の中でエサを見つける際、嗅覚や視覚に頼っていないのではないかという疑念のもと、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究者らは、この器用な動物はヒゲや手先の触覚によりエサを獲っているのではないかと考えた。

 

研究者らは、セルカという若いメスのラッコの手助けを得てその仮説についての調査を行った。セルカは何度も座礁し、モントレーベイ水族館に保護されリハビリを受けリリースされるということを繰り返した後、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で一時的に飼育されていた。このプロジェクトは生態・進化生物学の大学院生のサラ・マッケイ・ストローベル、き脚類認知感覚システム研究所のディレクター、コリーン・ライヒムスが主導した。

 

 

ストローベルは9月17日に学術誌であるエクスペリメンタルバイオロジー誌で発表された論文の筆頭執筆者だ。セルカにこの役割を果たす準備をさせていた数か月間を思い起こし、ストローベルは次のように語った。「訓練ということで言えば、ラッコは『問題児』とみられる場合もあります」

若いメスのラッコ、セルカはロングマリン研究所の研究者たちの、ラッコが水中でエサを見つけ見分ける感覚をどのように使いこないしているのかを学ぶ手助けをしていた。(Photo by Colleen Reichmuth; permit USFWS MA186914-2)


多くのボランティアによるチームの手助けを得て、ストローベルとライヒムス、そしてポストドクターのジリアン・シルズは水槽の側面に備え付けられた棚に近づくようトレーニングを行った。棚には縦に凹凸のある板が2枚並んでおり、一つは幅2mmの隙間、もう一つには幅5mmの隙間がある。セルカがその細い隙間から手を入れると板に触れるようになっており、幅2mmの隙間のある板を押すとエサを与え、セルカに正しい板を認識したことを分からせる。

 

まずその板の違いをセルカに分からせると、チームはセルカに2mmと4mmの隙間の選択肢を与えた際、2mmの隙間を見つけるよう訓練を行い、最終的には次第により狭い隙間を比較することができるよう訓練が行われた。板に鼻を近づける際にセルカに目隠しをしてトレーニングを行うのは難しかったが、研究者らはまたセルカにヒゲで板を調べるようにも教えた。

 

 

「慣れていないことをセルカにやらせると、セルカに噛まれるかもしれないことが分かっていました。だから、目隠しをすることが楽しいことだと思わせなければなりませんでした」

大学院生のサラ・マッケイ・ストローベルはセルカとロングマリン研究所で研究を行っていた。セルカは保護され、リハビリを受けてリリースされるということを繰り返した後、自然に帰すことができないと判定された。セルカは現在モントレーベイ水族館にいる。(Photo credit: pinnipedlab.ucsc.edu)


まず水面上でトレーニングを行った後、チームはセルカの水槽の水位を上げて棚を水に浸し、水面下の板を識別するようトレーニングを行った。

 

数か月にわたるトレーニングの後、チームは2mmの隙間と2.1mmから3mmの隙間を区別するセルカの能力をテストした。セルカは板を押して素早くクリックすることで、まず2mmの隙間の板を押した際にはそれが2mmの隙間の板だということがすぐに分かるようだった。しかし、最初に違うほうの板に行った場合はすぐにもう一つの板のほうに移った。

扉が開くや否や、一瞬で板を識別して押すセルカ。


 

ストローベルは、手を使った場合は0.2秒もかからず、ヒゲで調べた場合は0.4秒もかからないセルカの反応に驚いたと語った。対照的に人間のボランティアの場合は指先で触る場合30倍も時間がかかった。板が水の中にあっても外にあっても、セルカにとっては違いがなかった。

 

共同執筆者のティム・ティンカーは、隙間の幅が狭くなるにしたがってその違いを正確に見分けるセルカの能力の変化を比較するため、新しい統計学的な手法を用いた。ティンカーは、セルカが手で2mmより0.26mm広い幅の隙間を識別できることを発見した。またヒゲの場合は僅かにその正確性は落ちている。

 

ラッコは毎日自分の体重の25パーセントという膨大な量のエサを消費している。「ラッコは食べる機械です」とストローベルは言う。ストローベルは、触覚により素早く判断する能力は、ラッコが生きていくうえで必須のものだと考えている。

 

「セルカはできるだけ素早く自分の試行を解決するために記憶力を使っていました。ラッコが潜るのは1分から2分、もしくはそれより短い時間ですが、それはつまり短時間で効果的でなければならないということを意味します。この研究の結果、ラッコは短い時間の中でエサを見つけるために触覚を使う能力があるということを示しています」

University of California Santa Cruz

Decisive sea otters distinguish differences by touch

September 17, 2018