【記事】ラッコレスキュー:原油流出事故の影響 4 | Sea Otter Rescue : The Aftermath of an Oil Spill part 4

1989年3月24日、1艘の巨大タンカー、エクソン・バルディーズ号がアラスカ州プリンスウィリアム湾のブライ岩礁にぶつかり座礁し、当時米国史上最悪の原油流出事故となりました。
バルディーズとスワードにラッコレスキューセンターが作られ、多くのスタッフとボランティアが、油で汚染されたラッコを懸命に助けます。この洗浄・リハビリを行ったポイントデファイアンス動物園水族館のローランド・スミス氏の本、Sea Otter Rescueの翻訳をお届けします。本の写真は掲載できませんので、Archive.org(https://archive.org/details/seaotterrescueaf00smit/page/n71)でご覧ください。

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2 プリンス・ウィリアム湾のラッコたち

ラッコは、イタチ、ミンク、テン、アナグマ、スカンク、カワウソなどと同様イタチ科の動物だ。ラッコは海水に生息しているため、科学者らはラッコをクジラやイルカ、アザラシなどと同じ海洋哺乳類に分類している。ラッコはイタチ科の中では最も大きいが、海洋哺乳類の中では最も小さいものの一つだ。

 

平均的に押すの成獣は45~90パウンド(20~40kg)で、鼻の先から尾の先まで4フィート(約1.2m)になる。メスは一般的にオスより小さく、40~60パウンド(18~27kg)で体調もやや小さい。幼獣は生まれた時は3~4パウンド(1.3~1.8kg)で、生後1年で30パウンド(13.5kg)強になる。

 

ラッコの頭部は幅広で、大きく黒い目と小さな耳を持つ。尾は根元が厚く平たくなっており、体長の3分の1位ほどを占める。後ろ足はヒレのようになっており、水中で体を押しだすために使われている。

 

他の海洋性哺乳類とは異なり、ラッコは主に水面を泳ぐ。更に、泳ぐときは仰向けになり、後ろ足で水を掻き尾で方向を向ける。

 

前足はエサをとったり、グルーミングをしたりするためだけに使われ、泳ぐときには使われない。

 

かつて、ラッコは日本北部の北海道からソ連のカムチャツカ半島、そしてアラスカのアリューシャン列島を経てきたアメリカ西岸全域、そしてバハ半島に至るまでの環太平洋沿岸全域で見られた。

 

20世紀になる頃には、多くの人々はラッコは絶滅してしまったと考えていた。ラッコはその柔らかく厚い毛皮目的で無慈悲に乱獲され、その毛皮は高級なコートなどに使用された。しかし、ハンターから逃れることができたラッコもいた。政府の保護の助けもあり、ラッコは目覚ましく復活を遂げた。現在(訳者注:1990年代初頭)、カリフォルニア沿岸沖には約2,000頭、アラスカ沿岸には恐らく10万頭が生息している。

 

ラッコは沿岸から1マイル(約1.6km)の帯状の海のみを生息地としているため、ハンターに対しては非常に弱かった。ラッコは潜って海の底にいる生物であるエサを獲るため、沿岸近くにいなければならない。ラッコはまた悪天候の際には陸地に避難することもあり、また寒い時には「ホールアウト」(訳者注:海洋哺乳類が陸地に上がること)することもある。

人間と動物(特にラッコ)で異なっていることの一つは、人間は環境を調整することができるということだ。人間は暑くなれば着ているものを脱いだり、冷たいプールで泳いだり、冷房を付けたりすることができる。寒くなれば服をたくさん着たり、寒さをしのげるところを探したり、火に当たって温まることもできる。ラッコのような動物にはこのような選択肢がない。そのため、ラッコが生きていくための環境条件の幅は狭いのだ。

 

寒い時に温まったり、厚い時に涼んだりする機能を体温調節という。ラッコの体温の平均は華氏99度から100度(訳者注:摂氏37.2~37.8度)で、人間の体温に非常に近い。プリンス・ウィリアム湾のような冷たい海で、ラッコは独特の方法で体温を維持している。

 

クジラやイルカ、アザラシなどとは違い、ラッコは生息する凍るような冷たい海で体温を保つための脂肪層がない。その代わり、海にいる動物の中では予想外の方法を用いている。毛皮を濡れないように、きれいに保つことで体温を保持しているのだ。ラッコは毛皮の奥に空気を吹き込み、それが断熱層になり、また水に浮きやすくなるのだ。

 

ラッコは頻繁にグルーミングをするが、それにより毛皮をきれいに保っている。ラッコがグルーミングをする際は、まず水に沈んでいる部分を前足でこすり、泥や食べかすなどを毛から落としやすくする。次に水の中でぐるぐる回転し、体全体を濡らす。次に精力的に手でこすったり舐めたりして頭からしっぽまできれいにする。洗い終わると、鼻で毛皮の中へ空気を吹き込む。

 

ラッコの毛皮は2種類の毛から成り立っている。濃い、あるいは薄い茶色の長いガードヘアt銀色をした密度の高いアンダーヘアだ。1本のガードヘア当たりおよそ70本のアンダーヘアがあり、1セント硬貨の広さに30万本の毛が生えている。

 

ラッコの体の中で毛で守られていないのは前足の手のひらと、後足の指、耳、鼻、唇だ。これら露出した部分は体の中でわずか1パーセントしかない。ラッコは寒くなるとこれらの部分を冷たい海の外に出す。ラッコが多くの時間を頭や前足、後足を空中に突き出して仰向けになって寝ているのはこうした理由からだ。

 

ラッコが冷たい海の中で体温を保つもう一つの手段は、食べることだ。エネルギーを蓄え続けるため、ラッコは食べることでエネルギーを常に燃焼させなければならない。ラッコは毎日体重の3分の1から半分のエサを食べる。50パウンド(約22.5kg)のラッコにとって、これは年間5,000~9,000パウンド(約2,250kg~4,050kg)に当たり、同じ体重の人間の子どもが必要な食事の3倍から4倍に相当する。

 

ラッコは主に二枚貝やムラサキガイ、カニなどの魚介類を食べる。ラッコはエサを獲る際、30フィート(約27m)ほどまで潜る。ラッコは前足を使い、ムラサキガイを岩から引きはがしたり、海底からカニを拾ったりしてエサを集める。そうしたエサは「脇」の下に入れ、水面へ戻る。ラッコの肺はこの大きさの動物にしてはかなり大きく、一息で5分ほどまで水中にいることができる。

 

ラッコは水面に仰向けに浮かび、胸を食卓替わりに使って食べる。強い顎で殻を開けられない場合は、石を使って殻を開ける。

警戒するとき、ラッコは甲高い声で近くのラッコたちに危険を知らせる。何かに怖がっている時は、お互いにしがみつくこともある。特に幼いラッコには顕著で、怖い時には母親や他の知っている若いラッコにしがみついたりする。

 

陸上では、ラッコぎこちなくのろいが、水中ではすばしこい。捕食者から逃げるには、水が必要なのだ。ラッコが陸に上がる時は水際にいて、危険を察知したらすぐに水に戻れるようにしている。

 

ラッコの繁殖活動は一年を通じて行われる。妊娠期間は4か月から6か月と考えられている。出産は1月から3月にピークとなる。出産は陸上で行われることも水中で行われることもある。

 

生まれた時、赤ちゃんはほば何もできず、生まれて数か月は完全に母親に依存している。母親は赤ちゃんにエサを与えるだけでなく、冷たい海で体温を保てるよう、常に汚れを落とし、毛を梳き、空気を吹き込まなければならない。

 

生まれて最初の5か月から8か月ほど、子どもは母親の胸の上に乗っている。潜ってエサを獲りに行くときと自分の毛をグルーミングする時のみ、母親は赤ちゃんを乗せることができない。

生後1か月ごろ、母親は母乳の他に固形のエサを与え始める。最初は赤ちゃんはエサで遊んだりするが、そのうち噛み始める。子どもは生後9か月から1年ほどになるまでは、完全に卒乳しない。

 

母親はエサを獲りに潜る際、子どもを水面に浮かべておく。母親はエサのある場所近くにとどまり、子どもをみていない時間が長くならないようにする。水面に戻ると子どもを確認し、急いでエサを飲み込む。エサを食べると、母親は子どものグルーミングを行い、離れていた間についた汚れがないようにする。

 

ラッコは現在狩猟から守られているが、ラッコが生きていくのは非常に難しい。ラッコの毛の性質やグルーミングの習慣、水の上で多くの時間を過ごすことなどの理由により、ラッコは油の流出に非常に弱い。油に直接汚染されてしまうと、毛が汚れてしまい低体温症(体温が低くなること)になってしまう。代謝(体温を保持するために使われるエネルギーの量)が高くなると、ラッコは食べるのを止める。エサがないと、ラッコは体重が減ってしまう。そうすると、水に浮かぶためにより多くのエネルギーを使わなければならなくなる。体脂肪があれば水に浮きやすくなるが、その脂肪を消費してしまうからだ。また毛に付着した油を取ろうとして油を飲み込んでしまうこともある。原油は有害で、肺や肝臓、腎臓などラッコの内臓に危害を及ぼす可能性がある。

エクソン・バルディーズ号原油流出事故で原油に汚染され死んだラッコ Applegate Rocks, Prince William Sound, March 25, 1989. (Alaska. Dept. of Fish and Game)
エクソン・バルディーズ号原油流出事故で原油に汚染され死んだラッコ Applegate Rocks, Prince William Sound, March 25, 1989. (Alaska. Dept. of Fish and Game)

Roland Smith
Sea Otter Rescue - The Aftermath of an Oil Spill
Published in  1999