【記事】第11回ラッコ保全ワークショップのハイライト | Highlights from the 11th Sea Otter Conservation Workshop

本日は2019年4月8日付のGeospatial Ecology of Marine Megafauna Laboratoryより、大学院で海洋資源管理を研究するドミニク・コーンさんの"Highlights from the 11th Sea Otter Conservation Workshop"をお届けします。隔年で行われるラッコ保全ワークショップに初参加したコーンさん。数十年の研究経験がある多くの参加者の中で、駆け出しの研究者は何を思ったのでしょう。

By Dominique Kone, Masters Student in Marine Resource Management

先日、シアトル水族館が主催する隔年で行われるラッコ保全ワークショップに参加し発表をおこなった。世界最大のラッコに特化した会合であるこのワークショップは、多くの研究者や管理者、保全活動家がラッコの保全に関わる重要な情報や研究を共有する場だ。このコミュニティでは新人である私にとって、今回のワークショップは初参加で、世界で最も影響力のあるラッコ専門家の方々と会うことができるという機会に恵まれた。今、今回のワークショップからハイライトをいくつか思い起こしつつ、世界のラッコの個体群に対する継続した保全活動や管理にとってのこの会合の重要性を論じたいと思う。

 

ラッコは歴史上種の回復に最も成功したものの一つとして代表される。1911年に毛皮交易が終息を迎えた後絶滅に瀕し(Kenyon 1969)たラッコは、集中的な保全活動により印象的な回復を遂げた。この種はもはや酷い状況ではないものの、個体群の中には数が少なく、原油流出や病気など絶え間ない脅威により、今でも危機的状況であるとみなされている。世界のラッコの個体数が回復したと言えるまではまだ長い道のりがあり、継続した進展のためには、分野を超えた協働が必要だ。

 

ラッコ保全ワークショップはこの協働と情報の共有のための完璧な手段を提供している。参加者は科学者、管理者、保全団体、動物園や水族館のスタッフ、そして大学院生などだった。プレゼンテーションはいくつか例を挙げれば、生態学、生理学、遺伝学および飼育など、さまざまな分野にわたっていた。ワークショップの初日はラッコの生態と管理に焦点が当てらていたプレゼンテーションがほとんどだった。プレナリースピーカー(訳者注:国際会議などにおいて全員参加の講演で発表する人)のジム・エステス博士(退職した生態学者・カリフォルニア大学サンタクルーズ校教授)は、ラッコの回復がこのような成功を収めた理由の1つは、ラッコに関する自然史と行動に関する膨大な知識にあると述べた。こうした進歩の多くは、キーヨンによる1969年の報告書のような精力的な研究がもとになっているかもしれない。 1970年代以降、デビッド・ダギンス、ジム・ボトキン、ティム・ティンカー、ジム・エステス自身などの生態学者がこうした理解を複雑な栄養カスケードや各個体の餌の特化、個体数統計に広げたのだ。

ジム・エステス博士(左)とティム・ティンカー博士。Source: Jim Estes.
ジム・エステス博士(左)とティム・ティンカー博士。Source: Jim Estes.

こうした生態学研究はラッコ保全において統合的な役割を果たしてきたが、他の分野も同様に、これまで通り非常に重要だ。ワークショップが2日目、3日にはいると、発表の焦点は生理学、獣医学、飼育になった。こうした発表者の中で、この分野で中心的な役割を果たしている2人はメリッサ・ミラー博士(カリフォルニア州魚類野生生物局の獣医専門家で生理学者)とマイク・マリー博士(モントレーベイ水族館獣医部門ディレクター)だ。ミラー博士はカリフォルニア州における野生のカリフォルニアラッコの死因を理解するという何年にもわたる研究について発表した。博士の研究によると、カリフォルニアラッコにおいてサメの襲撃による死が大きく占めているが、あまり注目されていないものの心停止も大きな要因を占めているとのことだった。


マリー博士は自身が行っている飼育下のラッコのケアやラッコ生物学の研究について論じ、彼のチームが行っている座礁した野生のラッコを野生の帰すため、評価と治療を行うために日常的に行われている事柄の手順(全身検査や口腔手術、無線トランスミッタの埋め込み手術等)についての概要を提示した。どちらの発表者も野生のラッコに対する多くの脅威をより良く理解するために獣医学における発展が役立ち、野生の個体群に貢献できるよう病気やケガをしたラッコを回復させるためにどのような人的介入がとられるべきかを示した。こうした脅威が個々のラッコの健康にどのような影響を与えているかを理解することによって、ラッコの個体群全体に対して起こるべき結果を避けるためによりよく備えることができるのだ。

ラッコの死因を解明するため死後解剖を行うメリッサ・ミラー博士(右)Source: California Department of Fish & Game.
ラッコの死因を解明するため死後解剖を行うメリッサ・ミラー博士(右)Source: California Department of Fish & Game.

ワークショップ全体を通じて、数十年もの経験を持つ専門家がその研究の発表を行った。しかし、この会合で最も励みになるのは、私を含む数名の大学生もその研究発表を行っていたことだ。ある意味、その研究人生において初期にある発表者と後期にある発表者の両方の話を聞くことは、ラッコ保全の過去と未来を垣間見るような印象を与えてくれる。現在大学院生によって行われている研究のほとんどはその分野における最も喫緊の課題(例:サメによる捕食やプラスチック汚染、病気など)について述べられているが、ワークショップに参加している多くの人々が得た基礎的な知識を組み立て直してもいる。

 

恐らく更に励みになることは、大学院生と経験豊かな専門家の間で行われるコラボレーションと指導のレベルであった。大学院生らの発表の謝辞に含まれていたのは、その研究において彼らに助言や指導を行ってくれたワークショップ参加者の名前がいくつかあった。こうした発表後、更に学生とその指導者の間でミーティングが行われることもしばしばある。このように相互的な活動が行われることは、ラッコに関わる人々が各分野における未来のリーダーを育てることにどれだけ投資しているかを示すものだ。このように研究や知識を受け継いでいくことは、世代間で知識を保持し、ラッコ保全を更に引き続き推進していくうえで必ず必要なものだ。大学院生である私にとって、論文で読んだことしかない多くの研究者の皆さんと交流したり助言をいただいたりする機会を得られるのは本当にありがたいことだ。

Source: Bay Nature.
Source: Bay Nature.

私の経験を総括すると、ラッコ保全に関わる人々にとってどれほどこのワークショップが重要であるかがはっきりした。ワークショップは専門家間のコラボレーションや各分野の次世代にリーダーへの指導にとって完璧な機会を与えてくれる。ラッコの複雑な生活を理解するということにおいて、保全に携わる人々がこれまで行ってきた進歩や研究を知ることは非常に大切だ。従って、特に新たな脅威や問題が持ち上がる今、将来も進歩し続けるためには、全ての分野にまたがる知識を得続けることが必要であろう。そのためには、皆が関わっていくことが重要だ。

参考文献

Kenyon, K. W. 1969. The sea otter in the eastern Pacific Ocean. North American Fauna. 68. 352pp.

Geospatial Ecology of Marine Megafauna Laboratory

By Dominique Kone, Masters Student in Marine Resource Management

Highlights from the 11th Sea Otter Conservation Workshop

April 8, 2019