【記事】ラッコとケルプの森と海洋環境の転換点 | Kristen Weiss: Sea otters, kelp and ocean tipping points

 本日は2015年8月24日付のConservation & Science at the Monterey Bay Aquariumから、"Kristen Weiss: Sea otters, kelp and ocean tipping points"をお届けします。

ラッコが生態系に及ぼす影響についての研究が続けられています。

9月2日まで、モントレーベイ水族館とモントレー国立海洋保護区はビッグ・ブルー・ライブという番組を迎えます。これは、PBSとBBCによる、前例のない自然史のシリーズ番組です。ビッグ・ブルー・ライブはモントレー湾に毎夏集まる驚くべき回答生物たちにスポットを当て、世界中にとって大切な海洋保護のサクセスストーリーを祝うものです。私たちは、モントレー湾やわたしたちの水の惑星の健全性に貢献している保護活動について、ゲストコメントを発する予定です。私クリステン・ワイスがお届けします。海洋問題解決センターでサイエンス・フェローを務めていました。そのセンターは、スタンフォード大学のスタンフォード・ウッズ環境研究所とホプキンス・マリン・ステーション、モントレーベイ水族館及びモントレーベイ水族館研究所(MBARI)のコラボレーションです。

Kristen Weiss
Kristen Weiss

ラッコの喪失と回復は、モントレー湾のケルプの森の健全性に劇的な結果をもたらしています。100年もたたない昔、毛皮貿易業者の激しい乱獲により、カリフォルニア沿岸のラッコは絶滅したと考えられていました。1911年に公的にラッコ猟は禁止されましたが、当時、ラッコの回復の可能性はほとんどないと思われていました。


そして1938年、モントレーのすぐ南のビッグ・サーで、小さなラッコの群れが発見されました。それからラッコは保護動物という地位のおかげで少しずつ復活を遂げ、現在は約3,000頭になります。

1930s. 1930年代、ビッグサー海岸近くでラッコの群れが再発見された。Photo © William L. Morgan/California Views Photo Archives
1930s. 1930年代、ビッグサー海岸近くでラッコの群れが再発見された。Photo © William L. Morgan/California Views Photo Archives

ラッコは、現在はモントレー湾国立海洋保護区においてよく見かける存在となりました。そして、その保護区において、ケルプの生息地の再興に影響を及ぼしました。スタンフォード大学ホプキンス・マリン・ステーションのスティーブ・パランビ博士は、その著書「モントレー湾の生と死」に、モントレー湾でラッコが再び群れを作りだすと「ラッコたちは喜んでウニを食べ、その後には豊かなケルプの森が育っていった」と書いています。

 

転換点に達するケルプの森

自然において、1足す1は必ずしも2になるわけではない。人間による圧力や環境条件の小さな変化が、時には生態系において不釣合いなほどに大きな反応を返す結果ー崩壊してしまう可能性も含めてーになることがあります。生態系はストレス要因に対し単純に反応するわけではなく、生態的なしきい値(「転換点」とも言われる)を示し、それを越えると生態系が大きく変化するのです。海洋問題解決センターは、ケルプの森のような海洋生息域に存在する生態系のしきい値を理解し、予測することを目的とした海洋転換点プロジェクトに協力しています。

ウニなどのケルプを食べる動物を食べることでラッコはケルプの森の繁栄を可能にしている。 Photo by Neil Fisher
ウニなどのケルプを食べる動物を食べることでラッコはケルプの森の繁栄を可能にしている。 Photo by Neil Fisher

モントレー湾の場合のように、ラッコの喪失は典型的にケルプの森の生息地にとって急激な転換点となります。ラッコはキーストーン種としてケルプを主に食べるウニを捕食することで、ケルプ生息地を維持しています。ラッコがいなくなるとウニの個体数が規制されることなく増加し、ケルプの森をコントロール不能な状態で食べ尽くし、「ウニ砂漠」を作り上げ、ケルプの森が通常提供している生き物の隠れ家や生物多様性を失ってしまうのです。かつて幼魚、成魚、ウニや貝類・甲殻類などの無脊椎動物が多様に集まっていたケルプは、単純な生息地となってしまうのです。


このような転換点が起こると、生態系が人間に及ぼす利益の分配もかなり変化します。例えば、ケルプの生息域は水産業の対象となる種を擁していますし、ダイビングやシュノーケリングといった観光にとっても魅力です。しかし、ラッコがいなければウニ漁業者はかなりの利益をあげることもできるので、ラッコの復活を目的とした管理の干渉に対して反対するでしょう。このような、一方を得れば他方を諦めざるを得ないという状況は、海洋管理において社会的、生態的な価値のバランスを取ることの難しさを照らし出しています。


管理する者が社会的・生態的な複雑さについて言及するのを助けるため、海洋転換点プロジェクトの協働者らは、転換点に向かいやすい生態系を管理する7つの原則(下記のイラスト参照)を作りました。管理者らが、望まない転換点をよりよく予測し、それを避けることができるようにするためです。

モントレー湾のラッコへの希望

モントレー湾では、海洋管理者、科学者、環境保護活動家らが協働し調査や積極的な管理を通じてラッコの復活を推進しています。モントレーベイ水族館のラッコプログラムは30年以上活動しており、ラッコに関する重要な調査並びに怪我や遭難したラッコのケアを行っています。ラッコの健全な個体群を維持するためには、健全な海洋環境が必要なのです。

ケルプの森に対する転換点の管理に関する7つの原則(Graphic by Jackie Mandoski and Courtney Scarborough)※クリックで拡大

海洋問題解決センターでは、研究者たちがケルプ・フォレスト・アレー環境DNAといったプロジェクトで活動し、水質やケルプの森の生息地における生物多様性に関する重要な情報を集めています。こうしたプロジェクトは、どんな人間によって引き起こされた脅威や自然の脅威がモントレー湾に影響を及ぼしているのかを特定するのに役立ち、将来的にラッコの生息域をよりよく保護できるようになります。


モントレーの海岸におけるラッコの拡大は「様々な海岸への変化とモントレー湾の復興をもたらした」とパランビは書いています。「かつてはウニのとげだらけだった下干潮帯の岩礁はケルプの森が茂っており、ウニやアワビは岩の割れ目にいるだけだ。ケルプが繁茂しているところは、今や魚や無脊椎動物たちが豊かに繁栄している」


ラッコは歴史的な個体数と比較すればあだそこに至る道は遠いですが、カリフォルニア中央沿岸部での初期的な復活と、それに伴ってこのモントレー湾に健全なケルプの森が帰ってきたということは、明らかに人間による活動において影響を受けた他の種や地域に、希望をもたらすものなのです。


海洋問題解決センターが、海洋健全性への大きな問題にどのように取り組んでいるか、こちらからご覧ください。

Conservation & Science at the Monterey Bay Aquarium

Kristen Weiss: Sea otters, kelp and ocean tipping points

By Kristen Weiss, August 24, 2015