【記事】代理母ラッコプログラムを裏打ちする研究 | The feel-good science behind sea otter surrogacy

本日は2019年9月23日付の Conservation & Science at the Monterey Bay Aquariumより、"The feel-good science behind sea otter surrogacy"をお届けします。モントレーベイ水族館の代理母プログラムで育ったラッコたちは野生に帰って適応し生き延びているだけでははなく、質が劣化した沿岸環境を立て直すという大きな役割も果たしています。

ラッコのために何ができるか(だけ)ではなく、ラッコがカリフォルニアのために何ができるか。

 

これは、ラッコが沿岸の生態系を回復させる力を確認した新しい研究を受けて、水族館の科学者たちが考えていることのひとつだ。

 

2002年以来、モントレーベイ水族館は、救出されたラッコの子どもたちを野生に返せるよう育ててきた。当館のメスの展示ラッコたちはそのような子どものラッコの「代理母」となり、グルーミングの仕方やエサの取り方などのライフスキルを教えている。期待されているのは、水族館から20マイル北にある湿地、エルクホーン湿地帯で放たれた子どものラッコが自力で成長できるようになることだ。

新しい研究により、水族館のラッコプログラムは地域のラッコの個体群を支えていることがわかった。代理母に育てられたラッコがカリフォルニア中央沿岸部のエルクホーン湿地帯に飛び込んでいく。


新たに発表された研究によると、代理母に育てられたこれらの子どもたちは野生のラッコと同様に生存しており、その結果エルクホーン湿地帯のラッコの個体数が増加し、河口域の生態系の回復に役立っている。

 

水族館のプログラムの驚くべき成については、オリックス誌に掲載され、とてつもない機会を示している:ラッコがカリフォルニア沿岸の他の沿岸河口の復活に貢献するのを助けることだ。

327号(右)はモントレーベイ水族館で代理母のトゥーラ(左)に育てられた。

歴史的に毛皮目的で狩猟されてきたラッコは、19世紀にはカリフォルニアで絶滅寸前になった。連邦政府による保護と協調的な保全プログラムのおかげで、この数十年で個体数は徐々に回復している。しかし、カリフォルニアの野生ラッコの個体数は3,000頭を超えたところで安定域に達しており、歴史上の水準である18,000~20,000頭をはるかに下回っている。ラッコはキーストーン種であり、状態が劣化した海岸線に莫大な利益をもたらすことができるため、「生態系のエンジニア」と呼ばれている。

 

水族館のラッコ代理母プログラムは、この種のものとしては初めてのもので、ラッコの子どもを野生に戻し、育てていくための先駆的な取り組みだ。2002年から2016年にかけて、水族館の職員は、国立河口域保護区であるエルクホーン湿地帯で代理母に育てられた37頭の子どもをリリースした。科学者たちは現在、代理母に育てられたラッコと野生で生まれたその子孫が、過去15年間のエルクホーン湿地帯のラッコの個体数増加の半分以上を占めていると推定している。


「これらの個々のラッコの成功は、集団レベルと生態系レベルの両方の影響をもたらすことになります」と、水族館でラッコの野外対応コーディネーターを務め、この新しい科学的研究の主執筆者であるカール・メイヤーは言う。「これはラッコを歴史的な範囲に戻すことに関する新たな議論の基礎となるでしょう」

 

水族館の主任研究員であるカイル・バン・ホータン博士は、「私たちはこれが素晴らしいプログラムであることを知っていました」と付け加えた。「それは今や偉大な科学であることが分かったのです」

ナッジの必要性

毛皮交易が始まる前は、ラッコは日本北部からアラスカ、そして西海岸からメキシコのバハカリフォルニアに至る範囲にいた。しかし今日、カリフォルニアのラッコは中央海岸の300マイルの範囲、サンタクルーズ周辺からサンタバーバラまでに限られている。

 

「生息域の中心ではラッコの個体群は密度が高く、環境収容力に近い」のですとカールは言う。「しかし、北端と南端ではケルプはまばらで、ラッコがサメに噛まれないようにするための隠れ場所はほとんどありません。個体群が意味のある形で成長するためには、その生息範囲自体を、ラッコがまだ戻っていない歴史的な生息地に拡大する必要があるかもしれません。代理母プログラムを通して、その拡大を促進する方法を見つることができたかもしれません」

母に育てられた327号(右)は野生無事帰り、そこで自分の子どもを育てている


1960年代 から70年代にかけて、野生生物管理者はラッコを既存の生息地から、毛皮交易の前に生息していた水域に移植させる試みに成功した。ラッコが南アラスカ、ブリティッシュコロンビア、ワシントン州に戻るのを助けることができたが、オレゴン州でラッコを復活させる取り組みは失敗した。

 

カリフォルニア州では、1987年に100頭以上の野生ラッコがベンチュラの南70マイルのサン・ニコラス島に移されて以来、この移植は非難の的になったが、政治的にも生物学的にも失敗に終わった。80%以上のラッコが行方不明になったり、泳いで本土に戻ったりした。この島のラッコの数は近年増加しているが(ある推定では80頭以上)、移植のそもそもの失敗を覚えている人も多い。。

 

ラッコをより多くの歴史的生息域に再導入するための新たな提案は、サンニコラス島の教訓を考慮しなければならないとカールは警告している。

ここからどこへ向かうべきか

アビー(左)のような代理母は、座礁した子どものラッコが野生に帰れるように育てる手助けをしている

水族館が初めて展示ラッコと親を失った子どもたちのペアリングを始めたとき、その目的はラッコが歴史的な生息地に戻るのを助けることではなかった。水族館の研究チームは、単に代理母ラッコたちが、以前に同じことを試した人間よりも、救助された子どものラッコたちをもっとうまく教えることができるようになることを願っていた。

 

新しい研究論文では、代理母に育てられた子は野生のラッコと同程度の確率で生存することが確認されている。サンニコラス島に移されたラッコとは異なり、これらの野生のラッコはエルクホーン湿地帯を自分の故郷として受け入れている。


「一般的に、ラッコが一定の行動範囲を確保している場合は、その範囲に戻りたいと考えます」とカールは言う。「それがサンニコラスに移された動物の大部分で見られたことだと思います。ラッコたちは家に戻ろうとしたのです」

 

対照的に、代理母に育てられたラッコのほとんどは、エルクホーン湿地帯に放された後も留まった。カールによると、彼らが母親と離れ離れになったときに「生態学的にナイーブ」だったからだという。「縄張りを確立できるほど長く生きていなかったのです」とカールは言う。「多くの場合、生まれたその日に座礁しているのでしょう」

代理母に育てられたラッコは、野生のラッコと同等の生存率と繁殖率を有していることから、これらの動物を他の場所に再導入することは検討に値する。

 

歴史的に見て、カリフォルニア沿岸沿いにあった河口域はラッコの個体群を支えていた。カールによると、今日、アメリカの生態学的に劣化した河口の多くは、ラッコが戻ってくることで恩恵を受ける可能性がある。

 

「代理母に育てられたメスは、エルクホーン湿地帯で最初に出産をおこなったラッコの一部です」とカールは言う。「他の生息地の生態的記憶がないため、なじみのない生息地へ再導入するより適切な候補となるでしょう」

代理母に育てられ(研究対象ラッコ451号のように)野生に帰ったラッコはカリフォルニア州沿岸の生態系を再構築する手助けをしている


それがいつどこで起こるかはまだわからない。今のところ、水族館は文字通りまだよちよち歩きだ。

 Conservation & Science at the Monterey Bay Aquarium
The feel-good science behind sea otter surrogacy
September 23, 2019