【記事】トゥーラ ~保護プログラムの歴史に名を刻んだラッコ~ | Toola - an Otter who changed the history of the sea otter conservation program

保護された当時、生き延びられるかどうかも分からない状態だったトゥーラ。

そのトゥーラが、ラッコ保護プログラムの歴史を変えてしまうとは、誰も予想できませんでした。

代理母のパイオニア、トゥーラに関するいくつかの記事をまとめました。

(C) Monterey Bay Aquarium
(C) Monterey Bay Aquarium

絶望的な状態での保護

2012年3月3日、一匹の雌のラッコがモントレーベイ水族館のケアセンターでで息を引き取りました。

名前を、トゥーラといいました。死んだ当時の年齢は、15~6歳だったようです。

 

トゥーラは、1984年に始まったラッコ保護プログラムの歴史において最も偉大なラッコでした。

みなしごのラッコたちを育て上げただけでなく、法改正をも導き、研究者によるみなしごラッコたちの取り扱い方を根本から変えさせました。

「トゥーラは、もっともすばらしいロールモデルでした。トゥーラがいなくなって本当に寂しい。でも、トゥーラが私たちに残してくれた全てのことに、感謝しています。」

とモントレーベイ水族館ラッコ保護プログラムのコーディネータであるカール・メイヤー氏は言っています。

 

以前は、保護されたラッコが人間に慣れ過ぎて、自然に返した際に適応できなくなるということがしばしば起こりました。

しかしトゥーラが全てを変えたのです。

 

トゥーラは、2001年7月21日、カリフォルニア州ピスモビーチで打ち上げられているのを発見されました。保護された当時、約5歳ほどでした。トゥーラにはトキソプラズマの感染によって引き起こされる脳症と似た神経障害が見られました。また、呼吸障害やひどい慢性的な歯の病気もありました。ほぼ、死を宣告されたような状態でした。発作を抑えるための薬である程度容体はコントロールできたものの、薬を1日に2回投与し続けなければならないため、自然に返すことは絶望的となりました。

ラッコの、ラッコによる、ラッコのためのプログラム

保護当時はわからなかったのですが、トゥーラは妊娠していました。

保護されて3か月後、トゥーラは出産しますが、残念なことに死産でした。トゥーラは、死んだ我が子をしっかりと抱きしめ、泳いでいたそうです。

 

しかし、悲しみの中で奇跡は起こりました。

死産から2日後、生後2日の雄のラッコの赤ちゃんがデルモンテビーチで保護されたのです。

 

「偶然ですが、トゥーラの出産と同時期、生後間もない赤ちゃんラッコ、通称217号が保護されました。そこで、その赤ちゃんラッコをトゥーラに会わせてみて、どうなるか見てみようということになったのです」

広報のアリソン・バラット氏は言いました。

 

母親として、子育てするホルモンが分泌されていたのか、トゥーラは全く躊躇することなく、その赤ちゃんラッコを受け入れました。そしてまるで自分の子どもを世話するように、世話したのです。石で貝を開ける方法や、はさみで挟まれずにカニをうまく食べる方法、その他、ラッコとして生きるために必要なコツを教えました。

「トゥーラは、野生で生きていくために必要なスキルを教えるのが本当に上手でした」

とモントレー湾水族館の広報、ケン・ピーターソン氏は言っています。

 

人間の代わりにラッコによって育てられた217号は自然に戻され、現在はエルクホーン・スルー(湿地帯)でたくさんの子どもたちの父親になっています。

 

トゥーラは、さらに12匹のラッコたちをそれぞれ約5か月間ずつ、育てあげました。最後の1匹は、トゥーラの体調が悪くなったため引き離されてしまいました。11匹はすでに自然に戻されており、トゥーラが最初に育てたラッコを含め少なくとも5匹は生存しています。トゥーラの育てたラッコたちは自然の中で育ち、7匹の子どもを産み、そのうち5匹は無事親離れしています。

 

「トゥーラが来て以来、水族館のスタッフは他の雌ラッコたちも養母になれるように励ましてきました。そして、ラッコ保護プログラムは目覚ましい発展を遂げました」

とカール・メイヤー氏はは述べています。

 

下の動画は、Saving Otter 501から。親からはぐれた赤ちゃんラッコ501号をトゥーラに引き合わせた際のものです。慣れるまで数日かかりましたが、最後にお互いを受け入れ、抱っこして泳ぐ姿は感動的でもあります。

法改正への動き

数年前、トゥーラの物語が一人の少年の興味を引き付けました。

その少年の父親は、当時のカリフォルニア州下院議員、デイブ・ジョーンズでした。ジョーンズの息子は、父親にラッコを保護するための法律を提案するよう強くすすめました。2006年、法が制定され、猫用のトイレの砂のパッケージにはトキソプラズマの警告を載せなければならなくなりました。また、税金の申告の際、還付金の一部をラッコ保護へ寄付ができるチェックボックスを作り、ラッコの調査や保護のための資金を増やしています。申告書にチェックボックスがついたおかげで、2013年までにラッコ保護に200万ドル(2億円)以上の寄付が集まっています。

確定申告の際、還付金のうち任意の金額をラッコ保護のために寄付できるようになっている。数字を書き込むだけで自動的に寄付できるため、多くの寄付を集めることができる。
確定申告の際、還付金のうち任意の金額をラッコ保護のために寄付できるようになっている。数字を書き込むだけで自動的に寄付できるため、多くの寄付を集めることができる。

しかし、政治はトゥーラの得意分野ではありませんでした。トゥーラは子育てを愛し、水族館のスタッフをからかうことが好きでした。トゥーラの好きな遊びは、捕獲用のネットに泳いで入るふりをしつつ、逃げるという、果てしない追いかけっこでした。

「何千も動物を捕まえてきましたが、トゥーラにはいつもくじけさせられました。」メイヤー氏は言いました。

「トゥーラは、自分がそのプログラムをやりたいと思う時だけはちゃんとやってくれました。誰が主導権を握っていたかは明らかでした。いい意味で、体制に従わないラッコでしたよ。」

威厳ある死

スタッフがトゥーラの異常に気づいたのは2012年2月29日、水曜日でした。
普段とは何か様子が異なり、食事の時も普段ほど元気ではありませんでした。

翌木曜日になると、食欲はさらに低下しました。血液検査の結果、腎臓に問題があることがわかりました。

金曜日に撮ったX腺からは、心肥大が見られ、血液検査による腎臓の数値はさらに低下していました。

獣医たちの治療中は、回復するきざしが見られました。スタッフによると、トゥーラは金曜日まで最後の子どもの面倒を見ていたそうです。容体が落ち着いたとのことで、スタッフは土曜日の午前2時45分に一旦帰りましたが、朝6時に戻ってきた時にはトゥーラはすでに息を引き取っていました。

 

「トゥーラは最後まで、いつものようにすべきことをしていました。自分の時間の終わりが来て、そして旅立っていったのでしょう。威厳ある死だったと思います」モントレーベイ水族館の獣医マリー博士はサンノゼ・マーキュリーニュース紙に対してこう述べました。「私たちもみな、そのようにありたいものです」

 

オッタープロジェクト スティーブ・シメック氏

「トゥーラの遺産は何世代にもわたって受け継がれていくことでしょう。トゥーラは、私たちをラッコの赤ちゃんを育てる最良の方法の解決へと導いてくれました。『ラッコに任せよ』ということです。トゥーラは素晴らしい母であり、教育者でもありました。そして私たちはみな、トゥーラがしてくれた全てのことに感謝しています。」

 

モントレー湾水族館ラッコ保護プログラムマネージャー アンドリュー・ジョンソン

「トゥーラは疑いなく、私たちのプログラムの歴史の中で最も重要なラッコでした」「トゥーラは、保護されたラッコが、みなしごの赤ちゃんラッコたちを野生に返すためちゃんと育てることができることを示してくれました。また、トゥーラはラッコの保護に役立つ、重要な法律の制定を促しました。そして、水族館の何百万という来場者のみなさんに、ラッコの保護について考えさせています。私たちはみな、トゥーラがいなくなって寂しくなります」

 

モントレーベイ水族館獣医師マイク・マリー博士

「これだけラッコという生き物そのものや、世界のラッコ保護プログラム、ラッコをめぐる科学的なコミュニティと一般の人々との接点に対して、大きなインパクトを与えたラッコはいないと断言できます」

 

アソシエート・キュレーター(哺乳類) クリスティン・デアンジェロ氏

「水族館での生活は10年を超えていましたが、トゥーラは心の中では野生を保っていました。そして、強い意志の持ち主でした。

ラッコの展示に関わるスタッフみんなにとって、私ではなく、トゥーラが主導権を握っているということは明らかでした。トレーニングセッションで何かをやりたい時、トゥーラは私のほうをチラっと見るか、声をだすかしました。そうしたら、私はすぐ降参して、何でも好きなようにやらせたんです。トゥーラがいなくなった今、その役割を果たす別の『ヘッド・トレーナー』が必要です。」

 

【関連記事のご紹介】

参考:

SFGATE

Otter who raised orphaned pups, inspired law dies

Carolyn Jones, Published 4:00 am, Monday, March 5, 2012


Monterey Bay Aquarium

Toola, the “Most Important Animal” in the History of the Aquarium’s Sea Otter Program, Dies

March 3, 2012


npr

Toola, An Otter Pioneer Who Raised Orphan Pups, Has Died

EYDER PERALTA, March 05, 2012

 

San Jose Mercury News

Sea otter Toola, surrogate mother to Monterey Bay Aquarium's pups, dies

By Jeannie Evers, 03/03/2012