ラッコ百科 - 生態 | Range & Life

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ラッコの生息域

かつては北海道・樺太沿岸からバハカリフォルニアにかけての北太平洋沿岸に生息していましたが(灰色部分)、乱獲等により激減し、現在、自然の個体群は千島列島からアラスカにかけてと、カリフォルニア中央沿岸に生息しているのみとなりました。アラスカラッコの一部はカナダのブリティッシュコロンビア州、アメリカのワシントン州・オレゴン州※に人工的に移されたものが定着し、繁殖しています。

※オレゴンには定着しませんでした。

 

海岸から10km以内の主に岩礁やコンブ(ジャイアントケルプ)の森があるところに主に生息しています。
また、塩沼(海岸付近にある塩性の沼地)でも見られます。
ラッコが暮らす海は冷たく、水温は4℃から10℃ほどです。アラスカの海の一部は凍るほど寒いので、非常に厳しい環境で生きています。カリフォルニアは暑いイメージがありますが、海水は冷たいのです。

 

日本では北海道の根室や納沙布岬などに野生のラッコが再定着しつつあります。

sea otter map

(c)Seaotters.com

はカリフォルニアラッコ、はアラスカラッコ、はロシアラッコ(アジアラッコ)の生息域です。はかつてラッコが生息していた地域です。

地図中ほどの囲みは、1938年にカリフォルニアでラッコが再発見されてからの生息域の拡大状況です。


※現在の正確な生息域についてはこちらをご覧ください。
IUCN Red List Sea Otter -Species Range

"コンブの森"に暮らすラッコたち

コンブ(ジャイアントケルプ)の森は、魚やカニ・エビ・ウニなどの小動物がたくさん暮らしている豊かな場所。それらの小動物に天敵から身を守る隠れ家や産卵場所、プランクトンなどの餌を提供しています。

ラッコはこのコンブの森に棲む小動物の多くを主食としており、またラッコ自身もこのジャイアントケルプの森を中心に暮らしています。

ラッコはコンブを食い荒らすウニやアワビなどを食べ、食物連鎖の上位捕食者として生態系のバランスを取る重要な役割を果たしています。


こちらは、コンブを体に巻き付けるラッコの様子です。コンブの森はラッコに食料だけではなく、休む場も提供しています。 潮に流されないよう、コンブを体にくるくる巻き付けて船のイカリのようにつかいます。
水族館のラッコには手を繋いで休むラッコもいるようですが、野生のラッコが手を繋いでいるところはほとんど目撃されたことがありません。

ラッコの1日

ラッコは、餌を獲りに潜る以外の時間はほとんどを水の上で過ごします。食べたり、毛づくろいをしたり、休んだり、他の場所へ移動したりします。

ごく平均的には、餌を獲るのに8時間、毛づくろいに5~8時間、寝たり休んだりするのに11時間ほど費やしていると言われています。

 

カリフォルニアでは、1日のうち休んでいる時間は40%ほどに過ぎません。毛づくろいは8~10%程度です。中央沿岸部に生息しているラッコは1日のうち40~50%の時間を餌をとるために費やしていますが、生息域の端では20%程度に収まっています。(参考:Sea Otter Ethogram)

 

ラッコの1日を紹介しているNOAAの子供向け動画に字幕を入れてみました。

ラッコは群れで暮らす

英語の「群れ」という単語は、動物によって異なる呼び方があります。ライオンの群れはpride、鳥はflock、サメはshiver。
ラッコの群れはraft(いかだの意)と呼ばれています。ラッコが集団で浮いている様子は、確かにいかだのように見えますね。ラッコは通常、雌と子供の群れと、雄の群れに分かれて休みます。

 

ラッコの一年を通じて生活範囲は約0.8平方キロメートルで、沿岸16キロメートルにわたっており、雌の行動範囲は子育て期間になると雄の1.5倍から2倍の広さになるとの調査結果もあります。
しかし、その生活範囲から大きく出ることはありません。

ラッコは縄張り意識が強くなく、縄張り争いをすることはまれです。雄のラッコだけが縄張りを持ち、他の雄が縄張りに入らないよう見回りをします。雌は自由に複数の雄の縄張りを行き来します。

 

ラッコは大食漢

ラッコはカニ、アワビ、二枚貝、ムラサキガイ、ウニ、ユムシ、イカなどの無脊椎動物を食べます。ラッコにも好き嫌いがあるようで、2,3種類大好物があり、一生その餌にこだわるのだそうです。

 

ラッコは体温を守るための脂肪がないため常に熱を作り続けなければなりません。つまり代謝率が非常に高く、食べたものをどんどんエネルギーにしてしまいます。そのため、毎日体重の25%程度を食べなければなりません。体重40kgの雄は体を維持するためだけに毎日10kgの餌をとり、食べなければなりません。二枚貝でいうと1日に400個分に相当します。ラッコは小型の動物を餌にするため、それだけの量を探すだけでも、相当の労力です。

特に、子育て中の雌ラッコは子どもの分も餌を獲らなければならないため、非常に負担が大きく栄養不足になってしまうものも少なくありません。
寝ていることが多いラッコは怠け者に見られがちですが、これはエネルギーをセーブしているからなのです。

ラッコの頭蓋骨の一部。
ムラサキウニを繰り返し食べたラッコは、歯や頭蓋骨などにウニの色素が沈着して淡い紫色に染まります。
写真は上が下あご、下が上あごです。仰向けになっていたので、上下が逆になっています。

ラッコのふん。
このラッコはムラサキガイを食べているようです。殻ごと食べるわけではありませんが、歯で噛み砕く際に破片を食べてしまうようです。殻が消化されずそのまま排泄されているのが分かります。カニを食べるラッコのふんにはカニの殻が含まれています。
写真のような固形のふんのほか、もう少し柔らかいふんをするラッコもいます。食べる物によって異なるようです。水中で排泄することもありますし、陸上で排泄することもあります。

妊娠・出産・子育て

ラッコは一年を通じて繁殖します。一夫多妻制で、雄は複数の雌と交尾をします。

通常は雌雄は別のグループを作っていますが、発情期になると雌が雄のグループの中に入り込んでいきます。雄は発情している雌を見つけると、鼻先でつつくようなしぐさを見せます。雌がその雄に興味を持つと、カップルが成立します。1時間ほどじゃれ合うようなしぐさを見せたあと、交尾に至ります。

交尾も海の上で行います。

雄と雌は並んで浮かび、雄が雌の背後から覆いかぶさるように交尾します。体勢を維持するため雄は後ろから雌の鼻に噛みつくため、傷になり出血することがたびたびあります。交尾後の雌は鼻に怪我をしていることが多いのですぐにわかります。ただ残念なことに、その傷が致命傷となり、感染症をおこしたり餌を取れずに死んでしまう雌も少なくありません。

 

妊娠期間は6か月から9か月ほどですが、遅延着床(受精しても着床しない場合、受精卵が最長で3か月ほど仮眠状態になる)が起こることがあるため、長くなる場合もあります。妊娠しているかどうか外から見ただけではほとんど分かりません。

出産も水中で行います。カリフォルニアのラッコは、アラスカのラッコに比べて出産の頻度が2倍くらいあるのだそうです。産まれる時の大きさは約1.4~2.3kg程度と言われています。

 

通常は一度の妊娠で1頭の出産ですが、2%ほどの確率で双子が生まれることもあります。ただし、ラッコの子どもは親に依存するところが大きく、手がかかるため、通常どちらか一方が生き延びることとなります。

こちらは、ラッコの保護活動では世界トップの施設、モントレーベイ水族館裏にあるグレート・タイド・プールという、外海につながっている潮だまりでのラッコの出産です。2016年3月5日午後、野生のラッコがスタッフや来場者が見守る中出産しました。この時期はエルニーニョにより海が荒れており、穏やかなタイドプールを選んで出産したようです。

子どもにエサを分け与える母親(左)
子どもにエサを分け与える母親(左)

子育ては雌が単独で行います。雄は子育てには全く関わりません。

子育て期間は約4か月から12か月で、子どもは母親の足の付け根にある乳からミルクを飲みます。

子どもが小さいうちは母親が子どもの毛づくろいもします。

母親は子どもを腹の上にのせて休んだり移動したりします。

母親が餌を取りに行く間、子どもは無防備に一人で波の上に浮かんで待っているしかありません。その間に波に流されたり母親とはぐれたりすることもあり、またサメやワシなどに襲われてしまうこともあります。餌を取るために必要な潜水を習得しないうちに母親と離れてしまうと、数日も生きていくことができません。

 

ラッコが生きていくために必要不可欠なスキルである「潜水」「毛づくろい」、また食べられるエサや石などの道具の使い方も母親が子供に教えます。

子どもが自力で餌を獲ることができるようになるまでは、母親が子どもの分も餌を獲ります。そのため子育て中の母親ラッコには非常に負担がかかり、極端な栄養不足やストレス過多などに陥る「授乳末期症候群」(End-lactation Syndrome)になるものも少なくありません。

 

雄は5歳から8歳くらい、雌は5歳くらいで、生殖可能な成体になります。

寿命は15年から20年ほどと言われています。

 

平均値 参考AnAge

  • 性的成熟までの期間:雄 1,369日 雌 974日
  • 妊娠期間:140日
  • 授乳期間:175日
  • 胎数:1頭
  • 年間出産数:0.8頭
  • 妊娠から次の妊娠の間:548日
  • 出産時の体重:1,868g